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お正月に飲む「お屠蘇」とは?

「お屠蘇(トソ)」は、古来より正月の行事に欠かせない薬酒としてなじみ深く、「お屠蘇気分」の言葉もあるくらい広く日本人の間で親しまれています。本来、病気の予防や保健のために用いられた“くすり”が、日本へ伝わってから形式化し、新年の縁起を祝って1年間の病気払いのおまじないとして飲まれるようになったものです。

中国・魏(ギ)の名医であった華陀(カダ)が創製・処方した薬酒で、蘇(ソ)という病を起こす鬼を屠るという意味で名付けられました。一切の病の根源となる悪気や体内に蓄積された食毒を取り除き、延年長寿の効力があるとされています。

日本では、嵯峨天皇の弘仁年間(810~824)に唐の蘇明が和唐使として訪れた際、「屠白散」と称する霊薬を天皇四方拝の儀式に献上されたのが始まりです。その後宮中での仕様が民間にも広まり、元旦に息災を祝う意味で用いられるようになりました。白朮(ビャクジュツ)、山椒など消化機能を回復する薬と、桂皮、防風、桔梗根など寒さから身を守る薬で構成されています。運動不足で食べ過ぎ状態になっている時の消化を助け、また風邪に対する効果があるので、飲み過ぎや食べ過ぎには年中飲んでもいい方剤でもあり、また風邪は万病の元といわれるだけに寒い季節にこれらの生薬が使われる意義があります。特に、正月早々から一人一人が自分の身体を気遣うことができれば、「年中、無病息災でいられる」ことに繋がるというのが元来の意義です。

正しい漢方処方名は「屠蘇散(トソサン)」で、“散”とは構成生薬の中に揮発成分などを含むものが配合されていて、加熱して煎じる(このような方剤を「湯」と称する)とそれらの成分が散逸して効果の無くなる可能性があるため、本来は粉末のまま服用することが原則です。儀式の場合は、加熱する代わりにお酒でアルコール抽出することで、揮発成分をそのまま溶け出させて利用することになります。

雑煮を祝う前に、年少者から年長者の順に、新年の縁起と長寿を祈念して飲む“習わし”となっています。コロナ禍だからこそ、この正月に相応しい飲み物ではないでしょうか ?

屠蘇散の原材料となる基原植物は、すべて薬草園に植栽されていますよ。冬の晴れ間に薬草園を散策しながらそれら一つ一つをご確認ください。