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田んぼの雑草に強い利尿作用;サジオモダカの根茎

日本人の苗字(姓)には植物名から引用されているものが多く、例えば「沢瀉」と書いて「オモダカさん」と呼ばれています。その家紋(図①、②)として有名なところでは、5月18日(木)に一家心中(?)が報じられた歌舞伎の四代目市川猿之助さんの屋号が「沢瀉(オモダカ)屋」ですね。一方、同じ字を書く生薬の「沢瀉(タクシャ)」(写真①)はサジオモダカ(Alisma plantago-aquatica)の根茎部を調製・乾燥したもので、中国の古書『神農本草経』の上品(ポン)に収載されています。”沢水の傾瀉”すなわち水を注ぎ出す効果のあることから名付けられたもので、体内に停滞する不良の水分を排出・調整することによって、水に起因するいろいろの障害を改善する効果を持っています。漢方では口渇を止め、尿の出を良くし、目眩を治す効果があるとされて、「当帰芍薬散」、「八味丸」など重要な処方に配合され、水腫、腎炎、下痢、胃アトニーなどに幅広く用いられています。

ちなみに、マウスに低蛋白質・高脂肪の食餌を与え続けると、外観が変化する前に肝臓に異常が現れます。すなわち、正常な肝臓はピンク色ですが、栄養不良の場合は鮮明度が失われ黄味がかった乳白色になります。これは過剰の脂肪が蓄積したためで、このような病態動物を人工的に作って薬物の予防あるいは治療効果を調査します。その結果、漢方薬を与えると脂肪肝が予防され、特に沢瀉が強い作用を示すことが判明しました。成分として脂肪肝予防活性物質としてアリソールが見出され、血中コレステロールの低下、利尿作用なども認められています。

サジオモダカは日本各地の湿地に生えるオモダカ科の多年草で、夏になると長い花茎を出して小枝の先に小さな白花を開きます。花は初秋まで次々に咲き続けます(写真②)が、いずれも“一日花”です。和名は、顔面に似た形の葉が匙状になっており(写真③)、かつ長い柄の上に着いていることから ”匙面高”の意です。

沢瀉の国内生産が衰退した原因は単に価格の問題だけでなく、製品の形状にも問題がありました。すなわち、日本で普通に栽培すると花茎の基部が残って根茎が不定形となり、生薬としては不適合品となります。本種の花芽は短日・低温条件で誘起されることから、それらを回避する何らかの方策によって輸入品のようなほぼ球形の根茎を生産することは可能と思われますが、残念ながら未だ的確な栽培法が確立されていません。

図①
沢瀉模様の家紋一覧(ネット画像)
図②
歌舞伎役者・市川家の家紋(ネット画像)
写真① 中国の福建、広西省に産する“建(ケン)沢瀉”(1982. 1.10.撮影)
写真② 水田仕様の容器で栽培中のサジオモダカ(2023.7.04.撮影)
写真③ サジオモダカの花(ネット画像)