“秋の彼岸に七草を愛でる”
お盆が過ぎて9月になると朝晩の外気も冷えて、ススキの穂が出たり、ハギの花が見頃を迎えます。今年は9月10日が十五夜の満月で、それぞれのご家庭では思い思いに“お月見”をされることでしょう。
秋の七草としては、山上憶良が『万葉集(1537)の巻8』に詠んだ「秋の野に 咲きたる花を 指折りて かき数ふれば 七種の花 萩の花 尾花 葛花 撫子が花 女郎花また藤袴 朝顔の花」がよく知られています。
「葛花」は、日本の野山に繁茂しているクズの花ですね。大樹に登りついたような株の地下には腕の太さの肥大根があり、そこから“クズ澱粉”が採れます(写真①)。今では吉野葛(日本最古の森野旧薬園を所有)が有名ですが、江戸時代の文献には“熊川葛”が良品と記されています。このクズの葉は午睡と夜の睡眠で眠り方が異なっています。夜は葉裏を合わせるように下に垂れて眠り、日射が厳しい昼間は“葉焼け”を防ぐために葉を立てて表面を合わせた形になります(写真②)。そこで、“裏見草”の別名があり、万葉の歌人は“恨み草”の名で失恋の心情を歌に託しました。葉裏は少し白っぽいので、今しばらくはドライブ中でも“午睡”の様子を確認できますよ。
“朝顔の花”はキキョウです。詳しいことはホームページの「薬草のご紹介」でキキョウをクリックしてお読みください。
“萩の花”は、庭園の根締めに植えられるハギで、中でも枝がよく枝垂れるミヤギノハギは日本海側に分布するケハギから改良された園芸品種です。また朝鮮半島生まれのシロバナハギもよく知られています。これらの葉を食べて羽化するのが“キチョウ”で、模様の多少異なる数種が知られています(写真③)。
“尾花”は月見の装飾花瓶に欠かせないススキの穂ですね。ススキは荒れ地にいち早く侵入する“パイオニア植物”の一つであり、やや乾燥した土手や野原などに生えています。土壌水分の多い土地には近縁種の“オギ”が分布していて、穂だけでは極めて見分け難いです。ススキの穂は株元から放射状に出ているのに対して、オギは地下茎が横に伸びて拡がるので、垂直に広がった出方をしています(写真④)。比叡山坂本の周辺はオギが多く、ススキそのものを見つけるのに苦労するほどです。
かつて講演用の写真を撮るために、東京都豊島区雑司ヶ谷の鬼子母神堂(写真⑤)を訪れました。商売繁盛の縁起物として伝わる“穂ミミズク”(写真⑥)は、当時90歳近いお婆さんが亡くなって技を継承するものがいなくなり、門前の土産物店にも“商品がない”状態でしたが、その後の執念の「聞き取り調査」でお孫さん二人が細々と技を継承されている事実を知ることができ、念願の“穂ミミズク”をゲットしました。その後の講演に利用させてもらっております。





