耳寄りな話:1“春ウコンに花茎が出現”
春ウコン(標準和名はキョウオウ Curcuma aromatica)は、インド原産で寒さには極めて弱い植物です。そこで、京都以北では秋に根茎を掘り上げて屋内に収納し、通常は5月の連休前後に根茎を分割して植え付けるのが一般的な栽培法です。しかし、今年はより早く萌芽させようと考え、4月6日に根茎を植え付けた後、ビニールフィルムでトンネル被覆しました。その後、5月12日にはわずかな芽出しが確認できたので、フィルム被覆を取り除きました。
6月1日、管理作業に先立って園内を点検したところ、20㎝ほどに育った新葉の横に、淡桃色の花茎(正しくは“苞葉”)が伸び出していました。本来、熱帯圏の植物ですから、地温の低いところでの抽苔は極めて珍しい現象で、京都の薬草園でもこれまで2回しか確認されていないほどなのですが、気象用語と同じ用い方で「60年に一回」と形容しても、決して誇張ではない“珍事”と言えます。
今はまだ高さ10㎝ほどですが、次第に伸びてきて、下部の苞葉(緑白色)からそれぞれ1個ずつの花が見られるかもしれません。ちなみに、上部にある淡桃色の美しい苞葉は、授粉の手伝いをしてくれる昆虫(ガ)に花蜜の存在を指し示す役割を担っているのですよ。
花茎が出現した要因は何なのか、詳しいことは不明ですが、コロナ禍の中でも懸命に生きる人間に対して、薬神さんが“ほっこりできる”話題を提供してくれたのかもしれませんね。