葉陰でひっそりとフタバアオイが開花中です
時代劇「水戸黄門」の見せ場に登場する印籠には金蒔絵で丸に三葉葵紋(徳川家の家紋 写真①)が描かれていますが、これはフタバアオイ(Asarum caulescens)の葉を図案化したものです。今、薬草園・東玄関の右奥コーナーで葉陰にひっそりと特有の花を着けています(写真②、③)。この花が咲くと、京都では「葵祭」が行われて、全国各地から人々が集います。600人近くの祭員の頭挿(カザシ)花(写真④)として「花着きのフタバアオイ」が用いられ、また家々の軒にもかけられます。正しくは賀茂祭という下賀茂神社と上賀茂神社の例祭のことで、古くは4月中酉(トリ)の日に行われていたものが、明治以降は現在のように5月15日に行われるようになりました。その二つの神社の“ご神紋”が「花着きのフタバアオイ」(写真⑤、⑥)です。詳しくはHPで“薬草のご紹介”「フタバアオイ」をご覧ください。腐植質の湿った土壌で育てれば比較的大きな群落を作りやすい植物ではありますが、神様へのお供え物として毎年大量の新芽を提供する仕事は並大抵の苦労ではないでしょうね。
フタバアオイの花は4~5月頃に咲き、葉の間に長い柄をもった淡紅色の花を下向きに1個つけますが、3個の萼片は下半部で互いに接着して、お椀形の偽萼筒を形成しています。すなわち、上半部は強く後方に反り返ってしまうのです。花柱は6個、雄しべは12個で、著しく長い花糸を持っています。子房下位で、初めは花糸を曲げて葯を花床に接着させていますが、開花後は花糸を伸ばして葯を裂開するようなおもしろい運動をします。いずれの現象も葉陰でひっそりと行われますので、よほどその気になって観察しないと見逃してしまいます。


(2021.3.29.撮影)


(祭パンフより)


(ネット画像)