薬草園の開園10周年記念樹は“バナナの木”
薬草園はこの5月で開園10周年を迎えましたが、その記念樹としてモクレン科のカラタネオガタマノキ(Magnolia figo 英名:banana tree 別名:トウオガタマ)を植栽しました(写真①)。50年生の原木(写真②)から“取り木”(写真③)という手法で苗を育成しました。本種は高さ3mほどに成長する中国東南部原産の常緑小高木で、鑑賞樹として庭木用に導入されました。花に強いバナナの香りがあります。朝陽が上って気温が20℃以上になるとよく匂います。外側の茶褐色の萼片が落ちた蕾(写真④)をシャツの胸ポケットに入れておくと、体温で温められてバナナの甘い香りでむせ返るほどになります。主に5月連休明けから6月に咲きますが、8月中旬に強剪定するとその後に伸びた枝の葉腋に花芽を着けて、10月頃にも咲く“二季咲き性”という特性を有しています。花は写真⑤のように平開しない“含み咲き”という控えめで清楚な印象を受けるので、中国では「含笑花」と呼んで頭髪を飾る風習があるそうです。また「カラタネ」とは中国から渡来した意の“唐種”、あるいは稀にしか結実しないことに由来する“空種”という二つの説があります。ただ、実生苗を育ててみると、結実する割合が格段に増大し、同時に葉が薄くなってやや波打つようになり、さらには春先だけの一季咲きとなってしまいます。
基本種のオガタマノキ(招霊木 M. compressa)は、房総半島以南の温暖な地方の山野に自生する常緑高木で、古くは神社の境内に植えられていました。花は白色で弁縁が紫色を帯び、匂いは弱いです(写真⑥)。和名は招霊(おきたま)の転化したもので、その枝を神前に供えて「神霊を招祈奉るから」とされています。神代の昔、天宇受売命(アメノウズメノミコト)が天岩戸の前で「神楽」を舞った時にこの枝を持っていたとされ、また鈴のような果実(毬果(キュウカ))が「神楽鈴」の起源とされています。すなわち、元来神前に奉納する”玉串”に用いられたのは本種の枝であったものが、南方からその風習が伝来した際、それに似て全国に存在するサカキが代用されるようになってしまいました。したがって、今では神社の古さを現すシンボル・ツリーとして、江戸期以前に設置された各地の格式高い神社にだけ銘木が残されているわけです。小浜では神宮寺の本殿裏側(写真⑦)や近江八幡市・日牟禮八幡宮の本殿右側などにあります。






