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鋭い棘のあるハマビシの小果を、砂浜からどうやって拾い集めたかが謎

ハマビシ(Tribulus terrestris)は、本州の関東から福井県以西、四国、九州などの海岸砂地に生える一年草です。現在、砂浜の護岸工事などの環境変化によって各地で絶滅が危惧されています。夏期には緑色の偶数羽状複葉が地面を這うように広がり、葉腋から細い花柄を出して黄色の5弁花を咲かせます。果実は径5ミリほどの五角形の小果で、5個のタネに各2本、計10本の鋭い刺があります。

 果実を乾燥したものが生薬「蒺藜子(シツリシ)」で、浄血、利尿、鎮静作用などがあり、水腫、痒み、頭痛、眩暈や眼精疲労などの眼疾を目標とする漢方薬に処方されるほか、老人性皮膚掻痒症(ソウヨウショウ)やアトピー性皮膚炎、あるいは冷え症の慢性湿疹などに用いられています。さらに、中国の文献には急性腰痛症すなわちギックリ腰には粉末を蜂蜜で丸剤としたものを酒で服用すればよい、という記載も見られます。

 現在日本で使用される「蒺藜子」はほとんどが中国からの輸入品ですが、かつては千葉、福井、四国などでも採集・出荷され、江戸期にはとりわけ伊予産のものが上品、紀州産は次品として評価されていたようです。明和4年(1767)に刊行された板屋一助著の『稚狭考』には若狭の特産薬物として租税の代替品であったことが記されていますので、当時、若狭地域でも相当量の集荷がなされていたと考えられますが、砂浜から同じような色合いをした5ミリほどのごく小さい種子を、どうやって拾い集めたのかが全くの謎です。

 と言うのも、ハマビシを育てた砂にうっかり“素手”で触れると、鋭い棘があちこち刺さって非常に痛い思いをします。忍者が使用する“撒きビシ”と同じ形状となっていて、トゲが様々な角度に着いているからです。砂粒との大きさを考慮して篩分けすれば分別できないことはないと思われますが、人力ではそれも相当な労力を要して至難の業ですよね。それでも、昔の人は灼熱の浜で表面の砂を集めて、根気よく時間をかけて分別作業をしたのでしょうか ???

盛夏に黄色小花を開くハマビシ
結実期のハマビシ(1個のタネにトゲ2本)
素手に刺さったハマビシのタネ
蒺藜子(シツリシ)