トウスケボウフウ・邪悪な風病を防ぐ薬
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特徴
トウスケボウフウ(Ledebouriella seseloides)は、中国の黒竜江省や河北省などの乾燥した山地の斜面に生える多年草です。我が国へは江戸時代の享保年間(1716~36)に渡来し、当時国産薬物の調査・探索に貢献した森野藤助氏(1690~1767)へ本種が下賜された経緯から和名がつけられました。彼はこれを母屋の後ろにある小山に植え付け、その後も種々の薬草を増殖し、また珍木奇草を集めました。これが、(株)吉野葛本舗(奈良県宇陀市)の社屋周囲に現存する日本最古の私設“森野旧薬園”です。
高さ30~80cmになり、茎は単生で2分枝します。根は太く丈夫で、茎の基部には褐色繊維状の葉柄残基が密生します。葉は2~3回羽状分裂して、裂片は披針形で全縁。8~9月頃に白色小花を開きます。果実は卵形で、10月頃に完熟すると二つに割れます。栽培は比較的容易で、大きな被害を及ぼす病害虫は知られていませんが、種子を採取する際にはカメムシの事前防除が極めて重要です。
根および根茎が「防風(ボウフウ)」で、風病(邪悪な風邪による病)を防ぐ薬物とされ、発汗、解熱、鎮痛作用があって感冒、頭痛、関節痛などの治療に利用されます。ただし、本種は日本に自生しないため、古い時代、特に江戸中期以降は海岸の砂地に生えるハマボウフウの根を代用品として臨床経験を重ねてきましたが、近年では日中貿易が正常化して正品の防風が十分に輸入されるようになっています。