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ワタ品種は有史以前に確立し、その成り立ちに人の力は介在していない

夏に黄白色の大きな花(写真①)を咲かせるワタ(Gossypium)は、繊維作物として世界中で広く栽培されています。本来、木質化する多年草ですが、栽培上は一年草として扱われます。世界的には栽培面積の最も多い作物で、中国、アメリカ、インド、ロシアなどで大量生産されています(写真②)。綿花は種皮細胞の一部が毛として発達したもの(写真③)で、白色の長い綿毛は紡織用や脱脂綿、セルロース原料として利用されています。また繊維を除いた種子(写真④)には15~20%の油脂分が含まれ、微量含まれる有毒成分をアルカリ処理で取り除けば優良な食用油となります。動脈硬化や血栓の原因となる悪玉コレステロールの体内吸収を防ぐ働きがあります。また綿実サラダ油は、揚げ油として素材の旨みを引き出すとともに胸焼けしないといった特徴を持つことから、植物油の中でも高い評価を受けています。高級ツナ缶のベースオイルとして、また意外なところでは手延べ素麺の製造にも使われていますよ。

ワタが最初に栽培され、その繊維が利用されるようになったのはインドのインダス川流域で、今から4~5000年前のこととされています。紀元前2500年頃と推定されるパキスタン領のモヘンジョ・ダロ遺跡で、銀の小壺に付着していた布はアカネ類で染めたワタの織物です。ところが、ペルーの北部海岸、ワカ・プリエッタの紀元前3000年頃の初期農耕遺跡からもチョウの文様をあしらったワタのレース織物が出土しています。さらに、メキシコでは紀元前5800年頃に栄えたコスカトラン期の洞窟遺跡からワタの実が発見されました。つまり、ワタは数千年前から新・旧両大陸で栽培・利用されていたことになります。

最近の細胞学的な研究によれば、13対の大きな染色体(A)を持つ二倍体のワタはアフリカ南部のサバンナ地帯を起源とし、古くアラビア半島やシリア地域に伝播され、インダス川流域で栽培型が成立したと推定されることから、一般に「アジアワタ(G. herbaceum)」と呼ばれています。この栽培型から、ずっと後に栽培型のキダチワタ(G. arboreum)が起源されました。

これに対し、ペルーまたはボリビアに始まった野生のワタ(G. raimondii)は「アメリカワタ」と呼ばれ、新大陸の自生種に特徴的な別の13対の小さな染色体(D)を持っています。現在、広く栽培されている新大陸の四倍体(AD)のワタは、いずれも2倍体種であるアジアワタとアメリカワタが交雑し、続いて染色体数が倍になって生じたと推定されています(写真⑤)。

では、いつ、どこで、どのようにしてこの交配が起こったのか。まず実験的に、ワタの蒴果や種子が海水に浮き、長期間生存力を失わないことが確かめられました。この結果、旧大陸のワタが海流に乗ってアフリカから新大陸に到達し、そこで新大陸産のワタと交雑して雑種を生じたと考えることができます。

一方、1910年ドイツのウェゲナーが提唱した有名な“大陸移動説”によれば、かつて地続きであったアフリカとオーストラリア、南アメリカが約1億3500万年前から分離し始め、またアフリカとオーストラリアも約100万年前から分離したという。新旧両大陸がまだ一つの大陸だった頃、そこには大きな染色体を持つアジアワタと小さな染色体を持つアメリカワタの野生種がともに分布し、大陸が分離した後に雑種が生じたとする考え方があります。もっとも現在、新大陸ではアジアワタ系の野生種は発見されていませんが、アフリカと南アメリカの間にあるサント・ファゴ島にはこれに近縁のワタが見出されたことから、ほぼ後者の考え方が正しいものと支持されるようになっています。いずれの説にしても、この交配が極めて古い時代に起こったことだけは確かで、アメリカ大陸に人間が渡るずっと前のことと考えられています。したがって、ワタの起源・成立については、人間は全く関与しなかったと考えるのが妥当と思われます。

現在広く栽培されているアメリカワタにも、メキシコおよびグァテマラを中心とするリクチメン(G. hirsutum)(白図①)と、ペルー、ボリビアを中心としたペルーワタ(G. barbadense)の2種があります。ともにアジアワタよりは繊維が長く、糸を紡ぐのにも便利なものです。特に前者は温帯から寒帯にまで広く気候の変化にも適応性を持つので、北アメリカ、ロシア、中国北部などで栽培・生産されるようになりました。また後者はより繊維が細長くて乾燥気候に強いので、エジプトやスーダンなどのアフリカ、あるいはオリエント一帯で栽培されるようになって、エジプト綿やスーダン綿として大生産地帯となっています。

写真①
ワタの花
(2007. 9.09.撮影)
写真②
大規模栽培における綿花の収穫
(2015. 6.17.入手)
写真③
世界中で栽培される陸地ワタ(2007. 9.09.撮影)
写真④
市販の赤ワタと緑ワタ
(2002. 3.15.撮影)
写真⑤
ペルーの有色ワタ
(2002. 3.15.撮影)
白図①
陸地ワタの白図
(2009. 8.17.作画)

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