中川淳庵顕彰薬草園

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2026年6月のお知らせ

東玄関の右奥で十字形の白花を咲かせているのがドクダミです。白い花弁に見えるのは花穂を包む総苞であり、萼(ガク)も花弁もなく、しかも雌しべと雄しべは実際には機能しないという、実に味気ない「変わりダネ」の植物です。ごく稀に受精を経ない単為生殖で種子が作られます。「花びら」に虫を呼ぶという存在意義はないのですが、よく見れば白い十字形の花が意外と美しく、薬草園の中央付近に置いてある八重咲き(鉢植え)や斑入り葉(“五色ドクダミ”という)の品種もあり、観賞用としてもおもしろいものです。

しかしながら、本種は何ともいえない悪臭、ミミズが出てきそうなじめじめした生育地、取っても取ってもなくならない繁殖力など、人に嫌われる要素をたくさん持っていますよね。繁殖力の秘密は枝分かれする白い地下茎にあります。地上の茎が切断された刺激によって、地下茎の節々にある休眠芽が目覚めて一斉に萌芽するからです。例えば、50cm四方の中にある地下茎の長さは合計30mを越えるほどです。

開花期の地上部を乾燥させたものが「十薬」あるいは「重薬」と呼ばれ、『日本薬局方』にも収載されています。十の効能を持つ、重要な薬を意味します。独特の臭い成分には非常に強い抗菌作用があって、かつては外傷の化膿が最も怖いものでしたから、身近にあったドクダミはさぞ重宝されたことでしょう。「生の葉を火で炙り、“おでき”に貼って膿を出させるユニークな使い方もあります。ただし、この成分は揮発性で、採取後約10時間で消散してしまいます。一方、乾燥葉には緩下、利尿作用などがあって体内に溜まった老廃物を体外に排出します。そんなわけで「解体新茶」にも配合されているわけです。

ドクダミの横で紫紅色の大輪を咲かせているのはムラサキバレンギクです。北米原産の多年草で、草丈は60cmほどになります。頭花は直径10cm程度で、明るい赤紫色の舌状花を15枚程度つけ、開花初期はほぼ水平に開きますが、徐々に反り返って垂れ下がります。その形状が火消しの“まとい(馬簾)”に似ていることが和名の由来です。円錐状の花床には長い刺状の鱗片が付きます。鱗片は橙色で硬く光沢があり、外観も触感もプラスチックで作られた様相を呈しています。耐乾性、耐寒性、耐暑性のある強健な植物です。

本種の乾燥した根は「エキナセア根」と呼ばれ、感染症に対する抵抗力の増強作用や血液中の不純物を排出させる浄血作用があります。ドイツやアメリカでは「風邪予防や免疫力向上に有効なハーブ」として高い知名度を確立しています。ただし、過剰摂取すると、短期の発熱、吐き気、下痢を起こすこともあるので、アレルギー性の方や妊婦は使用を避けるべきです。

東玄関への通路入口で銀灰色の産毛に被われた葉の中から花茎を伸ばして黄色い花を咲かせているのはカレープラントです。その銀灰色を軽く撫でただけで触れた手や辺り一面にカレーの匂いが漂います。南ヨーロッパから北アフリカにかけての地中海沿岸を原産とする多年草で、乾燥した岩場や砂地に生えています。茎は頑丈な木質で、高さ60㎝以上にまで成長することもあります。
葉や花茎を乾燥させて“ポプリ”や“ドライフラワー”としますが、ほとんど色褪せしないで、香りもほぼ1年近く楽しめます。本種の茎葉から抽出した精油は、“不滅”を意味する「イモーテル(immortelle)」と呼ばれ、新陳代謝の促進や免疫系の活性化に有効で、アロマオイルとして利用されています。苦味が強いため食用には適さないのでカレー粉やカレー・ルーの原料としては用いない。

薬草園の中央にそびえるスズカケノキの下草として植栽したアマチャが開花最盛期を迎えています。アジサイ科の落葉低木で、滋賀県朽木辺りのスギ林下に自生株が散見されます。

生薬の「甘茶」は、9月に地上10cmくらいのところから刈り取り、葉と枝先を摘んで水洗し、約2日間陽乾します。これに水を噴霧して、1日積み重ねて発酵させた後、よく揉んで乾燥・仕上げられたものです。現在の主産地は長野県柏原付近で、年間の生産量は約40トンです。甘茶は『局方』に収載され、丸剤などの甘味、矯味用として家庭薬原料、口腔清涼剤の製造原料とされています。

4月8日に釈迦の降誕を祝して行われる灌仏会(カンブツエ)では、お参りする時に釈迦像の頭上から甘茶湯を注ぎます。いわゆる「花祭り」に使用される甘茶が本種です。後を引くしつこい甘さのお茶なので、私は苦手です。

薬草園の中ほどで個性的な拳大の花蕾をしたものが朝鮮アザミです。緑色をした、まるで鱗のようなゴツゴツしたところが萼(ガク)、これを剥くと出てくる円柱状のものが花托(カタク)で、主にこの部分が料理に使われます。

ハーブ名:アーティチョークは、日本では馴染みが薄いのですが、ヨーロッパの人々にとってはごく一般的な野菜です。中でもローマ市民は大好きで、揚げ物やソテー、煮込みの他、サラダやパスタなどの料理に使って楽しみます。花蕾をそのまま放置すると、やがて青紫色をした径20㎝ほどの超巨大なアザミの花が開きます。

“朝鮮”の名が付いていますが、原産地は地中海沿岸から中央アジアで、利用の歴史は非常に旧く、古代ローマ時代にまで遡ります。日本に伝わったのは明治時代ですが、当初の目的は花を楽しむ観賞用。食用として流通し始めたのはずっと後のことで、今では主にイタリアやアメリカ、スペインなどから年間を通して輸入されています。国内でも栽培されていますが、生産量はごくわずかに過ぎません。
朝鮮アザミの奥で甘い香りを放つ白花を咲かせるのはクチナシで、梅雨時期の代表的な花木です。八重咲き種が庭園樹として植えられていますが、果実が稔るのは一重咲きのものです。ただし、一つの個体から増殖すると、ほとんど結実しません。それは、同じ花の中で雄しべと雌しべの成熟期間が2~3日ずれることが原因です。すなわち、花粉は開花直後に成熟していますが、雌しべの先が分泌液で濡れてくるのはそれから2~3日後です(専門用語では「雄性先熟性」と言う)。植物にとっては遺伝的に劣化しやすい自家受精を回避する方策なのですが、結実を確実にするためには開花期の異なる複数の個体を挿し木で増やし、それぞれを隣接して植える必要があります。つまり、挿し木する親木としてどの株を選ぶかが大変重要な問題なのです。薬草園には大きな果実の樹と、相性の良い花粉樹および奄美産の野生株を隣接して植えてあります。秋日、黄紅色で5~7稜のある果実を結びます。普通木の実が熟すとクリやザクロのように必ず口を開きますが、この果実は寒さに当たって朽ち果てるまで開かないことから、和名は”口無し”に由来するとされていますが、その語源には諸説があります。

本種の完熟果実を乾燥したものが「山梔子(サンシシ)」で、親指大で丸く内部の赤黄色のものが良品とされています。日本では集荷されることがなく、市場品はほぼ中国産に依存しているのが実状です。山梔子は消炎、止血、利胆、解熱、鎮静薬として二日酔いの特効薬「黄連解毒湯」や更年期障害用の「加味逍遥散」などに配合されています。また“栗きんとん”など食品染色用としては台湾産の「水梔子」と称する果実が流通しています。

東玄関から一番離れた駐車場側に夏を代表する庭の花・ウスベニアオイが咲き誇っています。南ヨーロッパを原産とする多年性の宿根草で、草丈は通常60~80㎝ですが、肥培すると2mに達することもあります。径4cmほどの赤紫色の花に濃い紫の筋が入り、仄かな香りを有しています。

花はハーブティーとして利用され、お湯を注ぐと透き通った青いお茶になりますが、レモンを浮かべると瞬時にピンク色へ変色するので、大変人気があります。このように、花の水溶液は酸性や塩基性の溶液を加えると色が変化するので、理科の教材や夏休みの自由研究などに利用されることがあります。若葉と花はサラダに、葉と根は茹でて野菜としても利用できます。

 ドクダミの花
ムラサキバレンギクの花
 カレープラントの花
  アマチャの花
食べ頃の朝鮮アザミの蕾とその後の開花
クチナシの花と果実
ウスベニアオイの開花と花弁の収穫