中川淳庵顕彰薬草園

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2026年7月のお知らせ

見頃の花①; 東玄関から右側を向くとムクゲ(Hibiscus syriacus)の白い花が目に入ります。インド原産の落葉低木で、花は6月から10月まで咲き続け、特に焦げつくような真夏の暑さにも負けない、夏を代表する花ですが、アオイ科のオクラやローゼルと同じく“一日花”なのです。そのため栄華が長続きしないことを、”槿花一朝の夢”と昔から言い古されてきました。ムクゲの漢名が「木槿(モッキン)」です。また謡曲『千手』の一節に「身はこれ槿花一日の栄、命は陽炎の定めなきに似たり」と詠われています。

蕾を乾燥したものが生薬「木槿花」で、下痢止めの作用があり、胃腸カタルや腸出血などに用いられます。また樹皮は繊維質が強く、かつてタパ(樹皮布)の原料や結束材あるいは製紙原料として用いられていました。

韓国では「無窮花」と称し、国花となっていて、数多くの園芸品種が育成されていますが、日本では夏の茶花として認識されていて、特に江戸時代の茶匠・千宗旦が気品を備えた花としてこよなく愛好したことから一重咲き底紅の花を「宗旦木槿」、また小堀遠州が愛好した一重咲き純白を「遠州木槿」と呼び、この両者が茶道の世界では双璧と讃えられています。

見頃の花②; 高さ60㎝に伸びたそれぞれの茎頂部に、真っ赤な炎のよう花を着けたのがタイマツバナ(Monarda didyma)です。北アメリカ原産の多年草で、最近では夏の花壇を彩る花として桃色、紫色、白色、黄色など多彩な色の品種が育成されて親しまれており、力強く咲く姿が魅力的です。

ニューヨーク州西部を流れる川畔の先住民オスウェゴ族が、初期の入植者にハーブティーとしての利用法を教えたとされています。その後、アメリカの独立戦争前後にはお茶の代用品として重宝されました。花の香りが良くて開花期間が長く、養蜂家の蜜源植物として利用されます。また乾燥させると香りはより強くなり、ポプリに利用されます。殺菌力のある精油成分を含み、喉の痛みや消化不良などに効果的とされています。

見頃の花③; 薬草園の中央部に咲いているウツボグサ(Prunella vulgaris)は東アジアの寒帯から温帯にかけて広く分布する多年草で、日当たりの良い路傍や山裾に群生しています。6~8月頃、茎頂に紫色の唇形花を麦穂状に開くのですが、花穂の形が弓矢を入れる道具「靫(ウツボ)」に似ていることから和名がつけられました。また真夏に花穂のみが急に褐色に変色し、まさに枯れたようになるのが特徴です。その花穂を乾燥させたものが生薬の「夏枯草(カゴソウ)」で、可溶性無機塩類を約3.5%含んでいて、そのうちカリウムが68%を占めます。消炎性の利尿作用が強く、残尿感や不快感のある膀胱炎、腎臓炎などに有効とされていますが、漢方処方に配合されることはほとんどなく、「痩身ハーブ」としてサプリメント的な使われ方をされているようです。

見頃の花④; ウツボグサのすぐ横で、薄緑色の羽状複葉をつけた大型多年草がウイキョウ(Foeniculum vulgare)です。傘形の花序に20~50個の黄色小花を開いています。やや膨らみかけた黄緑色の未熟果実を噛むと、いきなり頭の中を風が吹き抜ける感覚を味わうことができます。風邪の初期に頭がもやもやする症状などに効果があることを実感できます。

その後、長楕円形をした麦粒状の果実となり、二つに割れます。その果実を乾燥したものが生薬の「茴香(ウイキョウ)」で、精油3~8%を含みます。漢方では健胃・整腸、去痰、鎮痛、駆風(お腹のガス抜き)などの作用があって、風邪の不快な初期症状を緩和する効果が知られています。

一方、伝統的な香辛料としては「フェンネル」と呼ばれています。ドリンク類や魚料理に用いると、満腹感を覚えさせ油分を体外に出すということから、「痩身ハーブ」として人気があります。優れた浄化剤で、体内から食べ過ぎや飲み過ぎで生じた毒素を取り除く働きが強いのです。また食後に5~6粒を噛むと、胸焼けやお腹の張りを防げます。

見頃の花⑤; 薬草園の中央でひときわ大きく枝葉を広げているのはスズカケノキ(Platanus orientalis)で、その枝先に径1㎝ほどの球果が垂れています。和名は、その集合果が山伏の着る篠懸の麻衣についている鈴玉のような房に似ていることが由来です。薬草園の新設に際して武田薬品・京都薬用植物園から提供された、「ギリシャ協会1995年株」と呼称される樹高30㎝ほどの苗を、竣工記念樹として2012年11月24日に植えたものです。14年経過した今では幹の直径が40㎝を越える大木となってきました。この木の成長を通じて先人の根強い人間愛の心を引き継ぎたいとの願いが込められています。

ヨーロッパ南東部のバルカン半島からヒマラヤまでの温帯に分布する落葉広葉樹で、新葉の展開とともに開花します。花は淡黄緑色の“風媒花”で、果実は長い柄の先に径3.5㎝ほどの球形果が3~4個連なって下垂します。花言葉は「天才」。これは、古代ギリシャにおいてアテネにある本種の並木道の木陰で哲学者たちがそれぞれ自論を説いたことに由来しています。

紀元前からすでに街路樹として用いられ、現在でもニレ、ボダイジュ、マロニエとともに世界四大街路樹の一つとなっています。成長が速く、また大気汚染にも強いので都市環境に適した緑化木と言えます。日本では日比谷公園の大木が明治37年(1904)に植えられたものです。一方、ギリシャのコス(Cos)島に生育する老樹は、その昔、医聖・ヒポクラテスがこの木の下で弟子達に講義したことから、いつしか「ヒポクラテスの木」と呼ばれるようになり、今では世界中の医学部や医療施設に数多くの「ヒポクラテスの形代」が植樹されています。

見頃の花⑥; 駐車場寄りの中央部で地表面近くに半低木状に繁茂したジャコウソウ(Thymus vulgaris)が、小さな白花を咲かせています。南ヨーロッパ原産で、日本へは明治初期に渡来しました。全草に芳香があり、軽く葉に触れるだけで手指に爽やかな匂いが移ります。花期の地上部を採取して陰干ししたものが生薬「百里香」で、百里離れた所まで香りがするということから名付けられました。発汗、収斂(シュウレン 粘膜や血管の細胞を引き締める作用)、利尿、強壮作用があり、痰咳、風邪、頭痛の治療に用いられています。ちなみに、中世では「貴方はタイムの香りがする」という表現が容姿端麗な人に対する最高の誉め言葉で、気品や優雅さの象徴であったようです。

古くから香辛料の一つとして、茎葉から抽出した精油を「タイム」あるいは「セルポレット油」と称し、調理やソース、トマトケチャップなどに賞用されています。元来、獣肉が料理の中心である西洋では、その悪臭を消し、腐敗や中毒を予防するため香辛料は欠かせない必需品でした。そこで、古来より香辛料に対する熱望が航海や探検熱を誘い、ひいては歴史や地理をも変えることにつながりました。

見頃の花⑦; ジャコウソウ横の駐車場に面した一画で、茎の先に穂を出して、淡紅色の小花を咲かせているのがハナハッカ(Origanum vulgare)です。ヨーロッパから南西アジアなどに分布する多年草で、繁殖力が強く、今では世界各地で広く栽培されています。ハナハッカ属には様々な変種や栽培種があり、精油の含有量はまちまちですが、いずれも温かみのある強い芳香を有しています。

花着きの茎葉から抽出した精油の「オレガノ」は、気分が落ち込んでいる時に元気と勇気を取り戻す香りで、際立った鎮静力を持ち、殺菌、解毒、消化促進にも役立つほか、疲労時の浴剤やマッサージオイルとしても効果を発揮します。

乾燥した茎葉はピリッとした特徴のある風味で、トマトやチーズと相性が良く、調味用としてイタリア、メキシコ、スペインなどの料理には欠かすことができないものです。

ムクゲ2種の花
タイマツバナの花容
褐変化したウツボグサの花穂
ウイキョウの花と未熟果実
竣工式での記念植樹
スズカケノキの雌花
10年目の樹幹
(径40㎝以上)
ジャコウソウの花
ハナハッカの花