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お知らせ(毎月、更新中です)

トピックス2026年6月のお知らせ

東玄関の右奥で十字形の白花を咲かせているのがドクダミです。白い花弁に見えるのは花穂を包む総苞であり、萼(ガク)も花弁もなく、しかも雌しべと雄しべは実際には機能しないという、実に味気ない「変わりダネ」の植物です。ごく稀に受精を経ない単為生殖で種子が作られます。「花びら」に虫を呼ぶという存在意義はないのですが、よく見れば白い十字形の花が意外と美しく、薬草園の中央付近に置いてある八重咲き(鉢植え)や斑入り葉(“五色ドクダミ”という)の品種もあり、観賞用としてもおもしろいものです。

しかしながら、本種は何ともいえない悪臭、ミミズが出てきそうなじめじめした生育地、取っても取ってもなくならない繁殖力など、人に嫌われる要素をたくさん持っていますよね。繁殖力の秘密は枝分かれする白い地下茎にあります。地上の茎が切断された刺激によって、地下茎の節々にある休眠芽が目覚めて一斉に萌芽するからです。例えば、50cm四方の中にある地下茎の長さは合計30mを越えるほどです。

開花期の地上部を乾燥させたものが「十薬」あるいは「重薬」と呼ばれ、『日本薬局方』にも収載されています。十の効能を持つ、重要な薬を意味します。独特の臭い成分には非常に強い抗菌作用があって、かつては外傷の化膿が最も怖いものでしたから、身近にあったドクダミはさぞ重宝されたことでしょう。「生の葉を火で炙り、“おでき”に貼って膿を出させるユニークな使い方もあります。ただし、この成分は揮発性で、採取後約10時間で消散してしまいます。一方、乾燥葉には緩下、利尿作用などがあって体内に溜まった老廃物を体外に排出します。そんなわけで「解体新茶」にも配合されているわけです。

ドクダミの横で紫紅色の大輪を咲かせているのはムラサキバレンギクです。北米原産の多年草で、草丈は60cmほどになります。頭花は直径10cm程度で、明るい赤紫色の舌状花を15枚程度つけ、開花初期はほぼ水平に開きますが、徐々に反り返って垂れ下がります。その形状が火消しの“まとい(馬簾)”に似ていることが和名の由来です。円錐状の花床には長い刺状の鱗片が付きます。鱗片は橙色で硬く光沢があり、外観も触感もプラスチックで作られた様相を呈しています。耐乾性、耐寒性、耐暑性のある強健な植物です。

本種の乾燥した根は「エキナセア根」と呼ばれ、感染症に対する抵抗力の増強作用や血液中の不純物を排出させる浄血作用があります。ドイツやアメリカでは「風邪予防や免疫力向上に有効なハーブ」として高い知名度を確立しています。ただし、過剰摂取すると、短期の発熱、吐き気、下痢を起こすこともあるので、アレルギー性の方や妊婦は使用を避けるべきです。

東玄関への通路入口で銀灰色の産毛に被われた葉の中から花茎を伸ばして黄色い花を咲かせているのはカレープラントです。その銀灰色を軽く撫でただけで触れた手や辺り一面にカレーの匂いが漂います。南ヨーロッパから北アフリカにかけての地中海沿岸を原産とする多年草で、乾燥した岩場や砂地に生えています。茎は頑丈な木質で、高さ60㎝以上にまで成長することもあります。
葉や花茎を乾燥させて“ポプリ”や“ドライフラワー”としますが、ほとんど色褪せしないで、香りもほぼ1年近く楽しめます。本種の茎葉から抽出した精油は、“不滅”を意味する「イモーテル(immortelle)」と呼ばれ、新陳代謝の促進や免疫系の活性化に有効で、アロマオイルとして利用されています。苦味が強いため食用には適さないのでカレー粉やカレー・ルーの原料としては用いない。

薬草園の中央にそびえるスズカケノキの下草として植栽したアマチャが開花最盛期を迎えています。アジサイ科の落葉低木で、滋賀県朽木辺りのスギ林下に自生株が散見されます。

生薬の「甘茶」は、9月に地上10cmくらいのところから刈り取り、葉と枝先を摘んで水洗し、約2日間陽乾します。これに水を噴霧して、1日積み重ねて発酵させた後、よく揉んで乾燥・仕上げられたものです。現在の主産地は長野県柏原付近で、年間の生産量は約40トンです。甘茶は『局方』に収載され、丸剤などの甘味、矯味用として家庭薬原料、口腔清涼剤の製造原料とされています。

4月8日に釈迦の降誕を祝して行われる灌仏会(カンブツエ)では、お参りする時に釈迦像の頭上から甘茶湯を注ぎます。いわゆる「花祭り」に使用される甘茶が本種です。後を引くしつこい甘さのお茶なので、私は苦手です。

薬草園の中ほどで個性的な拳大の花蕾をしたものが朝鮮アザミです。緑色をした、まるで鱗のようなゴツゴツしたところが萼(ガク)、これを剥くと出てくる円柱状のものが花托(カタク)で、主にこの部分が料理に使われます。

ハーブ名:アーティチョークは、日本では馴染みが薄いのですが、ヨーロッパの人々にとってはごく一般的な野菜です。中でもローマ市民は大好きで、揚げ物やソテー、煮込みの他、サラダやパスタなどの料理に使って楽しみます。花蕾をそのまま放置すると、やがて青紫色をした径20㎝ほどの超巨大なアザミの花が開きます。

“朝鮮”の名が付いていますが、原産地は地中海沿岸から中央アジアで、利用の歴史は非常に旧く、古代ローマ時代にまで遡ります。日本に伝わったのは明治時代ですが、当初の目的は花を楽しむ観賞用。食用として流通し始めたのはずっと後のことで、今では主にイタリアやアメリカ、スペインなどから年間を通して輸入されています。国内でも栽培されていますが、生産量はごくわずかに過ぎません。
朝鮮アザミの奥で甘い香りを放つ白花を咲かせるのはクチナシで、梅雨時期の代表的な花木です。八重咲き種が庭園樹として植えられていますが、果実が稔るのは一重咲きのものです。ただし、一つの個体から増殖すると、ほとんど結実しません。それは、同じ花の中で雄しべと雌しべの成熟期間が2~3日ずれることが原因です。すなわち、花粉は開花直後に成熟していますが、雌しべの先が分泌液で濡れてくるのはそれから2~3日後です(専門用語では「雄性先熟性」と言う)。植物にとっては遺伝的に劣化しやすい自家受精を回避する方策なのですが、結実を確実にするためには開花期の異なる複数の個体を挿し木で増やし、それぞれを隣接して植える必要があります。つまり、挿し木する親木としてどの株を選ぶかが大変重要な問題なのです。薬草園には大きな果実の樹と、相性の良い花粉樹および奄美産の野生株を隣接して植えてあります。秋日、黄紅色で5~7稜のある果実を結びます。普通木の実が熟すとクリやザクロのように必ず口を開きますが、この果実は寒さに当たって朽ち果てるまで開かないことから、和名は”口無し”に由来するとされていますが、その語源には諸説があります。

本種の完熟果実を乾燥したものが「山梔子(サンシシ)」で、親指大で丸く内部の赤黄色のものが良品とされています。日本では集荷されることがなく、市場品はほぼ中国産に依存しているのが実状です。山梔子は消炎、止血、利胆、解熱、鎮静薬として二日酔いの特効薬「黄連解毒湯」や更年期障害用の「加味逍遥散」などに配合されています。また“栗きんとん”など食品染色用としては台湾産の「水梔子」と称する果実が流通しています。

東玄関から一番離れた駐車場側に夏を代表する庭の花・ウスベニアオイが咲き誇っています。南ヨーロッパを原産とする多年性の宿根草で、草丈は通常60~80㎝ですが、肥培すると2mに達することもあります。径4cmほどの赤紫色の花に濃い紫の筋が入り、仄かな香りを有しています。

花はハーブティーとして利用され、お湯を注ぐと透き通った青いお茶になりますが、レモンを浮かべると瞬時にピンク色へ変色するので、大変人気があります。このように、花の水溶液は酸性や塩基性の溶液を加えると色が変化するので、理科の教材や夏休みの自由研究などに利用されることがあります。若葉と花はサラダに、葉と根は茹でて野菜としても利用できます。

 ドクダミの花
ムラサキバレンギクの花
 カレープラントの花
  アマチャの花
食べ頃の朝鮮アザミの蕾とその後の開花
クチナシの花と果実
ウスベニアオイの開花と花弁の収穫

トピックス6月の管理作業

① アマ、ルリヂシャの種子採取
② 西洋ワサビ、西洋ヤマハッカの整枝・剪定
③ シャクヤクの花殻切除(結実を防ぎ、根の肥大を図るため)
④ クララ、朝鮮アザミに倒伏防止の支柱を設置

トピックス“亜麻仁油で免疫力を向上して生活習慣病の予防を!!”

皆さんは“亜麻色の髪の乙女”という歌をご存知でしょうか(?)。私は団塊の世代なので、ヴィレッジ・シンガーズ(1968年2月発売)を真っ先に思い浮かべますが、同曲をカバーした島谷ひとみ(2002年)の方がオリコンチャートでは上位を占めたので、より幅広く知られているかもしれませんね。その亜麻色の本家・本元がアマ(Linum usitatissimum)です。中央アジア南部およびアラビア原産で、生育日数が85~100日と極めて短いため秋播き二年草あるいは春播き一年草として扱われています。草丈は1m前後になり、茎の太さは1~2mmで、茎の頂部で3~5本に枝分かれします。夏に藍色または白色の花を着けますが、早朝4~5時頃から開き始め、正午までには大半が散ってしまう“一日花”です。果実は黄褐色で円形、光沢があって、外皮は粘液層を持つので水分を吸収すると粘液が出てぬるぬるするので「ヌメゴマ」とも呼ばれます。

繊維や油の原料としていろいろな品種が育成され、広く世界各地で栽培されています。繊維用はロシアをはじめヨーロッパの北方植物であるのに対して、油用はアルゼンチン、インドなど、むしろ熱帯に適しています。かつて北海道では繊維用の栽培が行われていましたが、化学繊維の台頭に伴って1967年に製麻工場が撤収されたのを機に国内での栽培は皆無となってしまいました。ただ最近の健康指向から亜麻仁油の評価が高まるにつれて十勝、上川地方で細々と栽培が広がっているようです。ちなみに、薬草園で栽培しているのは繊維用の品種かと思われます。

真っ直ぐに走る繊維の全長を活かすため、アマは株ごと引き抜いて収穫されます。乾燥後、果実を取り除き、茎を水に浸けて繊維を取り出します。木質部や皮などを取り除くために、茎を円筒の間に通す亜麻打ち(scutching)作業が行われます。その後少し撚りがかけられ、温水に浸して濡れた状態で織り糸に紡がれます。『亜麻色の髪』と表現されるように、天然の亜麻は光沢のある美しい黄褐色を呈しています。伝統的な技法ではその色を日光に晒して取り除きますが、今ではほとんどが化学漂白されているようです。

亜麻繊維からの織物をリネン(linen)と呼び、繊維はアサ(麻)よりやや弱いが柔軟で絹のような光沢があり、毛羽立たず、通気性や吸湿性に優れています。肌触りも良いなど多くの優れた特性があって上質の織物にされます。亜麻糸を英語で古くはライン(line)と言い、細くて丈夫なので、lineは「線・筋」を意味する英単語になりました。一方、フランス語ではラン(lin)と言い、亜麻の高級繊維を使用した女性の下着がランジェリーです。薄物のリンネル類としては洋服地、ナフキン、テーブルクロス、ハンカチーフ、肌着、手芸用生地などに、また厚物としては天幕、帆布、ホースその他工業用としても需要が多いものです。さらに、繊維屑は製紙原料としても使用されています。

アマは近東で約1万年前に栽培化されました。世界で最も古い織物は、トルコ南東部で発見されたリネン(亜麻布)の端切れで、放射性炭素年代測定による調査では9000年前のものです。古代エジプトのミイラの布帯にも使われていたとされ、欧州へはローマ時代に広まったようです。当時、亜麻の布地は1インチ(2.54cm)四方あたり500本の糸が使われるほどきめが細かく、上着が1ポンドコインの穴を通り抜ける柔らかさであった由。9世紀に、フランク王国のカール大帝はフランドルの町を亜麻織物の中心地として発展させました。リネンは中世後期までキリスト教聖職者が身につけ、死者を覆うものと規定されていたため、ヨーロッパの僧院ではアマの大規模栽培が行われていました。その後の18世紀半ば、プロテスタントのリネン労働者は、ローマカトリックの土地であったベルギー、フランスからアイルランドへ移住したため、亜麻織物の中心もアイルランドに移り、今日でも名声を博しています。しかしながら、現在の主要生産国はカナダと中国となっています。

アマ種子(亜麻仁)を圧搾して得た「亜麻仁油」は乾性油で、必須オメガ脂肪酸であるリノール酸やα-リノレン酸などを豊富に含んでいます。かつて腸炎に内服剤として、あるいは浣腸剤やパップ剤とされましたが、現在では軟膏基剤、カリ石鹸の原料、絵の具や印刷用インキ、VOCを放出しない溶剤としてシックハウス症候群対策の塗料およびリノリウムなどの材料に使われています。また健康サプリメントとしてもコレステロール値の上昇を抑えて動脈硬化の予防や血流の改善、免疫力の向上などに効果があるとして、近年注目を浴びています。亜麻仁油は加熱することで簡単に重合・酸化します。そのため加熱調理には適していません。クセが少なくて独特の風味がありますので、様々な料理にそのまま適量をかけて食べるのがお勧めです。

アマの芽生えから開花まで
アマの果実とタネの選別

トピックス2026年5月のお知らせ

東玄関の横にあるサンシュユの株元から左巻きに蔓を伸ばして、その葉群の中に淡桃紅色の花を咲かせているのがアケビなのですが、今年は5月連休前に花が終わってしまいました。蔓は工芸物に利用されます。この樹は小鳥からの贈り物で、糞の中からいつの間にか生え出してきて成長したものです。秋になると長楕円形の果実ができて、熟すると縦に裂開し、中の白い部分が食べられるのですが、黒いタネがいっぱいあって吐き出すのに苦労します。また紫色をした果皮の中に肉、茸、味噌などを詰めて油で炒めると、ほろ苦い野趣豊かな”酒の肴”の出来上がりです。さらに、果実に同量の砂糖を入れて1週間置くと、粘稠で甘い酵母が採れます。布でろ過してパンやケーキを焼くのに利用できます。

蔓茎を横切りにして乾燥したものが「木通(モクツウ)」で、体内に滞っている余分な水分や熱感を排尿することによって外に出す働きがあります。そのために関節リウマチ、神経痛、膀胱炎や浮腫、湿疹などの症状に用いられています。また一風変わった使い方としては、野外において木の枝などで突き目をした時、アケビの蔓を10cmほど切り、一方の端から息を吹き込んで出てきた汁をつけると痛みが和らぎます。

アケビの右側で枝先に桃色を帯びた白色の小花をつけたのがコエンドロです。花とその後にできる果実(コリアンダー)はレモンとセージを混ぜたような特有の芳香を放ってインドカレー粉の主原料となります。一方、葉(パクチー)はセロリに似ていて独特の臭気(=カメムシの臭い)があります。中華料理やタイ・ベトナム料理などには欠かせない香辛料です。地中海地域原産の一年草で、3,000年以上もの古い栽培の歴史があって、今では世界各地で商業的に栽培されています。乾燥した果実を「胡荽子(コズイシ)」と呼び、健胃、駆風(お腹のガス抜き)、鎮痛・鎮静、去痰作用などがあり、胃液や胆汁分泌を促進することから消化不良などに利用されます。

5月の薬草園でひときわ目を引くのは超豪華なボタンの花と、それに続くシャクヤクですが、これもボタンが早々に散ってしまいました。昔から“立てば芍薬、座れば牡丹”の諺で美人を称えるものとされていますが、実は漢方の極意を表した格言なのです。すなわち、血液の巡りが良過ぎてイライラしたり上せるご婦人にはシャクヤクの根を、また逆に血の巡りが悪い瘀血(オケツ)の症状にはボタンの根を飲ませなさい、そうすると健康を取り戻せる=美人になりますよ、というのが真意なのです。ともにご婦人方の不調な症状を改善する妙薬となっています。前者は交感神経にも作用する薬材で、急に起こる筋肉のけいれん(こむら返り)を鎮めてくれるお薬です。

ところで、市販のボタン苗はシャクヤクの台木に接ぎ木したものなので、大株に育ってもその根はシャクヤクですから、“牡丹皮”は採れません。今咲いている株は、こぼれタネから自分の根で育った実生10年生株(推定)ですから、正真正銘“牡丹皮”が収穫できるものです。周りに植えた小株も開園10年目に採取したタネから発芽させましたので、同じく薬用の株です。

一方、物置の前でたくさんの蕾を伸ばしているシャクヤクは、淡桃白色の半八重咲きで、昔から吉野地方で守られてきた「梵天(ボンテン)」という薬用種です。薄皮を剥くと真っ白の「白芍」になります。日本人は何故か白い色を高貴に感じる民族のようで、やや茶褐色を呈する赤花の根「赤芍」より白い薬材を重用してきました。

今、薬草園の中央付近で甘いバナナの香りを放っている黄色小花がカラタネオガタマの木です。開園10周年の記念樹として植栽したもので、剪定の仕方によって春・秋の二季咲き性となる中国原産の常緑小高木です。茶色の外萼片が外れた蕾を胸ポケットに入れておくと、体温で温められ20℃以上で強く匂うようになります。英名は“バナナ・ツリー”です。なお、和名は“招霊木(オガタマノキ)”が語源で、かつて南日本に産する樹種の枝を「玉串」として利用した名残りです。現在ではツバキ科のサカキの枝を使用するのが一般的となっていますので、その樹は明治期以前に創建された古い神社の境内に植栽されていることが多く、小浜では神宮寺本堂の裏に大木があります。

アケビの花と秋に実った果実
コエンドロの花

10年生(推定)実生株の開花
薬用シャクヤク“梵天”
カラタネオガタマの花
神宮寺本殿裏にある
オガタマノキ

トピックス5月の管理作業

① トウゴマの整枝
例年には冬に株ごと枯れてしまうのですが、今年は暖冬の影響で、6株ほどが新芽を伸ばしてきたので、整枝しました。

② 秋ウコンの根茎を定植しました。また行者ニンニクの苗を植え付けました。

③ メボウキとローゼルの苗をそれぞれ植付けました。

トピックス“農耕民族はヤマフジの左巻きを神聖化の対象とした”

今頃、若狭の山裾ではあちこちでフジの花が見頃を迎えている想定でかかる文章を準備しましたが、その花も散って小さな莢果実が膨らみ始めています。

フジ(Wisteria floribunda)は北海道を除く各地に分布する落葉のつる性木本植物です。別名の「ノダフジ」は、摂津国野田(現在の大阪市西成区付近)の藤之宮にフジの名所があったことに由来しています。つるは上から見て時計回り(右巻き)に他物に巻きついて伸びます。葉は奇数羽状複葉で互生し、小葉が11~19枚で他種より多いのが特徴です。花序は長さ20~90cmになって下垂するので観賞用に多く栽培されています。4~6月頃、花序の基部から先端に向かって咲いていきます。花は通常紫色ですが、白色もあります。埼玉県春日部市牛島の藤花園にある「野田長藤」は、樹齢1200年以上で別名「六尺藤」とも呼ばれ、唯一国の特別天然記念物に指定されています。かつて小浜の釣姫神社にも天然記念物の大株がありましたが、昭和28年(1953)の台風によって社殿とともに倒壊して枯れてしまったようです。現在、福井県内で最大級のフジは、越前市の紫式部公園にある200mのトンネルで、4月末頃に見頃を迎えて“くぐり抜け”が楽しめます。

『万葉集』には27首が見られます。風に揺れる長い花房を「藤波」という語で表すことが多く、またつる皮から採った繊維で庶民の衣服が織られましたが、その「藤衣」を海女の着る粗末な衣服として詠みました。平安時代には服喪の時だけ藤衣を着用したとされています。平城京の飛香舎(ヒギョウシャ)の庭にもフジが植えられていたようで、その主・中宮の藤原彰子に仕えた紫式部は『源氏物語』を記し、その中に光源氏の理想の女性として“藤壺”を登場させています。

下垂する花が稲穂を連想させ、豊作を予兆させることから、古来よりフジの花は自然暦として農作業や漁期の目安に使われてきました。特に、近畿から中国、四国地方においては、農作業を始める卯月8日には“天道花”という風習が知られています。ツツジやヤマブキとともにフジの花を長い竹竿の先につけて軒先に掲げるもので、花は山から豊作の神を招く依代(ヨリシロ)だったようです。

一方、ヤマフジ(W. brachybotrys)は本州の兵庫県以西から九州に分布しています。つるが左巻きに伸びるのが最大の特徴で、花序はフジより短くてほぼ一斉に開花する傾向があります。

古くから「不死」の木として神聖視され、特に挿頭(カザシ)の花材として珍重されました。それぞれの花が大きく鮮やかで長持ちするし、秋に返り咲いたものは殊に喜ばれます。それに対して(ノダ)フジは、花房は長いものの花柄が脆く、寿命が短くて見苦しくなりやすいのです。ただし、神聖視される所以はむしろ“茎が左巻きである”点が重要です。何故なら、左の語源は「陽(ヒ)足りる」で、陽が照り満ちるところが農耕民族にとっては最も大切で、神聖化の対象とするべきことだったのです(江坂輝弥氏の『万有百科大事典』参照)。そのため、左はいつしか「陽当たる命の根本」と見なされるようになったものらしい。因みに、『日本書紀』には皇祖神でもある天照大神の隠れた天岩戸に張られた縄が左巻きであったと記述されており、注連縄(シメナワ)の左巻き起源は古い歴史を持っていることが解ります。日本の国技である相撲の世界でも、“横綱”は左巻きであることが伝承されています。さらに、人の生命の根源である遺伝子(DNA)が、左巻きであることは案外知られていませんよね。

写真①
広島・和気フジ園
(2002.5.5.撮影)
写真②
福知山市“才の神のフジ”
(2009.5.5.撮影)
写真③
宇治の平等院
(2011.5.6.撮影)
写真④
草津市の三大神社“砂擦りのフジ”
(2016.5.1.撮影)
写真⑤
奈良・万葉植物園の白野田フジ
(2026.4.25.撮影)

トピックス2026年4月のお知らせ

全国各地からサクラ満開の知らせが届き、野山の草木も一斉に萌黄色の新芽を伸ばしてきました。いよいよ新学期の始まりですね。

薬草園でも多くの種類が新芽や花芽を展開して、それぞれ春の見頃を迎えます。
まず東玄関の横で、いち早く黄色い花を咲かせている木がサンシュユで、秋に赤く熟した果肉を強壮剤とします。中高年向けの“八味地黄丸”に配合されています。

その反対側の駐車場寄りにはルリヂシャが美しい星形の花を咲かせています。全草が白い毛で被われ、特に楕円形の葉に触ると、痛いほどの細かい剛毛です。憂鬱を取り除くハーブとして、ワインに浸し神経過敏症の鎮静に用います。タンニン、カリウム、カルシウムなどを多く含み、発汗や解熱などの優れた作用があり、葉・茎・花にはキュウリのような爽やかな風味が感じられます。花の美しさからデザインのモチーフとしても人気があります。

サンシュユとルリヂシャの花

トピックス4月の管理作業

① ケイトウ・ノゲイトウのタネ播き

いずれも直根性のため直播きとしますが、ノゲイトウは大株に育つために株間を60㎝と大きくしておく必要があります。適当な間隔で点播きした後、軽く覆土し、発芽後に間
引きします。なお、ケイトウには倒伏防止のため必ず支柱を施します。

ノゲイトウはインド原産の一年草で、草丈1mほどに育ちます。葉はすべて紫紅色を呈してよく目立ちます。また花序は円錐形で、紅白の二段咲きとなって美しいので、切り花として市販されています。黒く熟した種子は「青葙子(セイソウシ)」と呼ばれ、強壮・消炎薬として血液や目の病気に利用されます。

一方、観賞用に改良されたケイトウは、花序が鶏冠のようになって夏を代表する花です。日本に導入されて日が浅く珍しかったのか、淳庵さんが薬品会へ出品した記録が残されています。「鶏冠花(ケイカンカ)」と呼ばれ、止瀉、止血の作用があって下痢や痔疾の薬とさ
れていたようです。

② エビスグサ・ハトムギ・ローゼルのタネ播き

いずれも熱帯性の植物ですから、発芽には比較的高い温度が必要です。エビスグサは直播きしますが、ハトムギとローゼルは4月下旬にポット苗として仕立てた後、根を傷めないよう注意深く50㎝間隔で植え付けます。

3種は茶材として利用される植物で、それぞれ肌荒れを防ぐ効果が大きい“お茶”となります。すなわち、エビスグサの種子「決明子(ケツメイシ)」には糞便を軟らかくする緩下作用があります。ハトムギの果皮を取り除いた「薏苡仁(ヨクイニン)」は利尿、消炎などの効能を持つ重要な漢薬の一つで、疣(イボ)とりの妙薬でもあります。ローゼルは花のあと赤紅色に肥厚する萼片を「ハイビスカス・ティー」として利用します。熱湯を注ぐと美しい紅色となり、少し酸味があって疲労回復に役立つ爽やかな飲み物となります。

③ サボンソウ株の整理

ナデシコ科のサボンソウは中央アジア原産で、耐寒力のある多年草です。日本へは明治初期に導入され、花が美しいため花壇用宿根草としてもよく植えられています。草丈は30cmほどに株立ちとなってよく茂ります。またタネでも増殖するため、薬草園のあちこちに逸脱株が見られます。そこで、地下茎ごと掘り起こして株を減らすことにしました。実は、一・二年草を植えるためのスペースが無くなってきたのです。

古くから薬用植物として知られ、地下茎を乾燥したものが「サポナリア根」で、去痰薬とするほか慢性皮膚炎などに体質改善外用薬として利用されました。地下茎と葉には天然界面活性成分としてサポニン4%を含むため石鹸として使われます。この成分は水と油どちらにも馴染みやすい性質を兼ね備えており、肌に負担をかけずに汚れを優しく落とすことができます。古代ギリシャ時代には羊毛を晒すのに利用され、現在では国宝級文化財の衣裳や絨毯の専用洗剤として重用されているようです。

ノゲイトウとケイトウの花の違い
ローゼルの花と肥厚した萼筒
ハイビスカス・ティー
サボンソウの花と地下茎の泡立ち

トピックス“ヨモギ蒸しは、身体を芯から温めるデトックス法です”

サクラが咲くころになると路傍や空き地のあちこちで白い綿毛に被われたヨモギの新芽が伸び出してきます。地下に根茎が横走し、さらに匍匐茎を出して伸び、各所から芽を出して拡がることが、この植物名に「佳萌草(ヨモギ)=佳く萌える草」が充てられる所以です。その若芽を米の粉に入れて草餅を作ります。比叡山坂本にある甘味処“三九良(サンクロウ)”には甲賀市の羽二重餅と国産ヨモギをふんだんに用いた香り豊かな蓬餅が売られています(写真参照)。沖縄では健胃効果のある野菜として市場で売られており、とりわけ山羊料理には欠かせないものだそうです。

一方、5月端午の節句にショウブとともにヨモギを軒に挿す風習は今でも各地に残っていますね。ヨモギには特異の芳香があり、この植物には神を招き、悪霊を祓う力があると考えられた。これは、古く中国で虎懸門にヨモギを懸けて悪魔除けにした風習に起因するものとされています。

葉の乾燥したものを「艾葉(ガイヨウ)」と称し、収斂(シュウレン 筋肉や体液を引き締めて漏れ出るのを止める作用)、止血に用いられます。漢方では主に婦人性器の不正出血、月経過多、妊娠中の腹痛、膀胱炎、痔の出血、血尿などに応用されます。血行を良くして肌の新陳代謝を高め、肌荒れを素早く回復させる働きがあります。煎じ薬として飲むだけでなく、艾葉は少し変わった使い方でも思わぬ効果を発揮します。すなわち、“ヨモギ蒸し”という使い方です。専用の穴空き台座(市販品あり)に素っ裸で座り、専用のマントで首から下を蔽った後、台座下の中央部でヨモギの葉を燻します。骨盤周りを煙で直接温め、また粘膜や皮膚から揮発成分を浸透させることで全身の血流が良くなり、基礎代謝を向上させることができます。週1~2回の継続で特に婦人科系の悩み緩和や美肌効果が期待できます。古代ギリシャの医学誌「ディオスコリデス」にも「座浴することによって身体を温め、月経を正常にする」と記されているほどなのですよ。

ところで、ずっと前のテレビ時代劇に『木枯らし紋次郎』というのがあり、「あっしには係わりのねぇ事でござんす」と言いながら紋次郎が色々な事件に係わっていく物語。ある時、刀で斬られた後、草むらに入ってヨモギを傷口に擦り込むシーンがありました。次の週には傷口も消えて、また大活躍をしていたので、ヨモギの薬効はかなりのものだったようです。

トピックス2026年3月(弥生)のお知らせ

まだ肌寒い日が続いていますが、開園以来14年目の春が巡ってきました。今年からこの“お知らせ”も装いを新たにして取り組みたいと思います。

「○○月の管理作業」では、実際にタネ播きや植付けした植物、あるいは花の見頃や収穫期を迎えたものを月ごとに数種を取り上げて、栽培管理のポイントや利用の仕方、効能などについてそれぞれ簡潔にお知らせすることを目指します。また「トピックス」ではこれまで通り、季節ごと歳時記のような情報をまとめてお知らせします。

いずれかの記事に興味を持たれたら、薬草園に足を運んでいただいて、実物の姿・形をお確かめください。手で触れて葉や花の匂いも楽しみましょう。

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