トップページ > 中川淳庵顕彰薬草園 > カギカズラの鈎刺(コウキョク)が徘徊の衝動を抑えます

カギカズラの鈎刺(コウキョク)が徘徊の衝動を抑えます

最近の介護現場で最も深刻な症状は“徘徊”や介護人に対する“暴言・暴力”で、それらを抑制するために「抑肝散(No.54)」という漢方薬が処方されています。ツムラの22年度第2四半期売上高を見ると、37.7億円で、大手術後の食欲改善などに効果的な「大建中湯(No.100)」の49.3億円、身体全体を活性化する「補中益気湯(No.41)」の40.6億円に次いで三番目の売上げを占めています。

「抑肝散」は、もともと子どもの夜泣き、疳(カン)の虫に使われた処方で、「肝」の高ぶりを抑える働きがあるとされています。漢方では『肝』が昂ると、怒りやイライラが現れると考えるからです。体力が中程度の大人で、怒りっぽく興奮しやすい、イライラする、眠れないなどの精神神経症状を訴える場合、あるいは記憶障害や認知症、妄想や幻覚、特に徘徊・暴力行動の抑制などに極めて効果的です。

「抑肝散」には薬草園に植栽されていないカギカズラの鈎状の刺(=釣藤鈎(チョウトウコウ) 写真①)が主材として配合されています。他は、植栽されている当帰(トウキの根)、柴胡(ミシマサイコの根)、川芎(センキュウの根茎)、白朮(オオバナオケラの根茎)、甘草(ウラルカンゾウの根・根茎)および茯苓(マツホド菌の菌核)などです。

カギカズラ(Uncaria rhynchophylla)は、房総半島から九州南部の山中に分布するアカネ科の常緑つる性の木です。私(渡辺)は京都の松尾神社(京都市指定天然記念物)、伏見・醍醐寺の裏山、種子島などでそれぞれ自生株を観察した経験があります。卵状楕円形の葉が対生し、その基部に茎の変形した鈎刺があり、他物に絡ませて高さ30mまで達するほど枝を張るので遠目にもそれとすぐ判ります。花は小さい黄色花が密集して球状となり、6~7月に咲きます(写真②、③)。種子は小さくて両端に翼があります。

鈎は「釣藤鈎(チョウトウコウ)」と呼ばれ、成分としては多種のインドールアルカロイドを含み、鎮痛、鎮痙、血圧降下および収斂作用などが知られています。

30m高さまで生育し、黄色を帯びた白色花と緩やかに曲がったトゲを有するのが特徴です。花も葉も目立つ植物ではありませんが、和名の由来となった「鈎」の着き方に特徴があります。すなわち、小枝の変化した鈎状の刺は対生した葉のつけねにありますが、左右に出るものと1個のみ出るものが交互に着いています(写真④)。この鈎は何かに引っかかると異常に発達し、植物体を固定して上へ上へと導く役目を果たします。引っかけた植物の樹冠の上に伸び上がり、少しでも日光を浴びて効率よく光合成を営むための仕組みになっているわけです。

昔の人はカギカズラの鈎刺部に精神的な作用のあることをどうやって知ったのでしょうか、不思議ですね。今、大勢の人がその恩恵に浴していることは紛れもない事実ですから、先人の知恵に大感謝です。

写真①; 生薬・釣藤鈎(チョウトウコウ)
写真②; カギカズラの開花期
(2005. 6.14.撮影)
写真③; カギカズラの花
写真④; カギカズラの鈎の着き方(2004. 9.03.撮影)