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ショウブは“尚武”に通じる厄除け

何事もタイミングが大切で一日遅れても意味がないという例に「六日の菖蒲、十日の菊」という諺があります。菖蒲は端午の節句(旧暦の5月5日)のもの、菊は重陽の節句(同9月9日)のものということの強調ですが、とりわけ前者は”薬”と縁が深いものです。すなわち、古い時代の宮中行事で、薬用とするために鹿の袋角を採る狩猟を二隊で競いました。この行事は後に流鏑馬(ヤブサメ)につながり、今もって古い神社などの儀式として残されていますが、そのことに端を発して5月5日を薬草採集の日としたことから、その行事を「薬猟(狩) (クスリガリ)」と呼ぶようになりました。一方、船の進水式などで用いられる「くす玉」は、元来「薬玉」が語源で、これは宮中で邪気を祓う香薬を入れた玉に、ショウブやヨモギをあしらい、東西の柱に架けたことに由来するものです。そもそも、端午の節句にヨモギとショウブを軒下にぶら下げる風習は、古く中国から伝わったもので、それぞれ特異の芳香があって「神を招き、悪霊を祓う力がある」と考えられてきました。またショウブの葉は長剣に似ており“尚武・勝負”に通じるからともされています。元来は『女の家』といって、5月田植えの前に邪気を払う『忌みこもり』の行事として、田植え女がショウブとヨモギで屋根葺きした小屋にこもる習慣があり、それが変化した形と考えられます。

ショウブ(Acorus calamus)は暖温帯の湿地に広く野生する多年草で、全草に芳香があり、根茎は太く、葉は長剣状で、長さ50~90cm、中央にははっきりとした中肋があります。5~6月、葉の中ほどに円柱状の肉穂花序を出して多数の淡黄緑色の花を密生します(写真参照)。これまではサトイモ科に分類されていましたが、最近の遺伝子解析によってショウブ科(新設)に属しています。

その根茎を乾燥したものが「菖蒲根」で、鎮痛、鎮静作用などがあり、芳香性健胃薬として内服されています。また神経の緊張をほぐし、血行を良くして身体を温める効果があるので、「浴湯料」としても多用されています。欧米でも”Rizoma Calami”の名で広く薬用にされているようです。なお、ショウブと云えば水辺に咲くハナショウブ(Iris ensata var. ensata)を思い浮かべる方も多いと思いますが、これはアヤメ科の植物でまったくの別物ですね。

一方、ヨモギ(Artemisia iprinceps)は各地の山野で普通に見られるキク科の多年草です。地下に根茎が横走し、さらに匍匐茎を出して伸び、各所から芽を出して拡がることから「佳萌草(ヨモギ)=佳く萌える草」と呼ばれ、また一説では良く燃えることから「良燃草(ヨモギ)」ともされています。
 葉の乾燥したものを「艾葉(ガイヨウ)」と称し、主に月経過多・不正出血、妊娠中の腹痛、膀胱炎、痔の出血、血尿などに利用されています。また浴用剤として風呂に入れ、腰痛や冷え症、痔の治療に用いられています。さらに、野外でのちょっとした外傷には生の葉を揉んだ汁が有効です。傷口が少しだけ「ピリッ」としますが !! (なお、ヨモギについては別の機会に詳しく解説する予定です)

ショウブ・ヨモギの軒飾り(ネット画像)
ショウブの花序(黄色の粒々が花)(ネット画像)