中川淳庵顕彰薬草園

中川淳庵顕彰薬草園 > お知らせ > 品種改良が盛んな日本原産のアジサイ

品種改良が盛んな日本原産のアジサイ

オランダ東インド会社の医師で、長崎出島にあったオランダ商館に滞在していたシーボルト(Philipp F. Siebold)は、丸山の遊女・其扇(ソノギ)の本名「楠本滝(通称“お滝さん”)」をアジサイの学名に付し、彼の著書『日本植物誌』で紹介しています。残念ながらすでに別の名前で発表されていたので、オタクサの学名は認められませんでしたが、彼が持ち帰った株はライデン大学のシーボルト記念植物園で今でも大事に育てられています(渡辺が現役の頃、同園の園長と数回懇談する機会があって確認しました)。恐らく当時広く愛培されていた極めて平凡的な系統で(写真①)、オランダではその土性によって青色がうまく発色しなかったためほとんど注目を集めなかったようです(同じように持ち帰られたアケビの花の構造図が、後日ライデン大学の校章となっているのに比べると格段の扱いですが、――)。

アジサイ(Hydrangea macrophylla)は、鎌倉時代に伊豆七島野生のガクアジサイから園芸化され、江戸時代にはごく一般的な庭園樹となっていました。古く中国に渡り、そこから1789年にバンクス卿(J. Banks)によってイギリス・キュー植物園に導入されましたが、その品種は現在でも導入者を記念して「サー・ジョセフ・バンクス」と呼ばれています。また品種・マリエシィは、日本の桃色アジサイがフランス人によって導入されたものですが、これにベニガクなどが交雑親となって現在のように多色の品種群がヨーロッパで育成され、「西洋アジサイ(garden hydrangea)」と呼ばれて世界中で広く愛培されるようになりました(写真②)。日本でも初夏だけでなく、クリスマスの頃にも色とりどりの鉢物が販売されていますね。最近、オランダから導入された品種・アナベル(写真③)は、北アメリカ原産で大きな純白球状の花を咲かせます。基本的なガクアジサイの花形を額縁型(写真④)、アジサイ形を手毬型(写真⑤)として区分します。

本種の花の青色は、アントシアニンと有機酸の一種およびアルミニウムの複合体によって発現しています。そこで、酸性の土壌ではアルミ成分や鉄分が根から吸収されやすいので花の色が青くなりますが、逆の場合は桃色が強く発色します。また土壌中の硝酸態窒素とアンモニア態窒素の割合なども花色を変える原因となっています。したがって、人為的に青の発色を促すためには肥料として過リン酸石灰や硫酸アンモニウムなどを、また反対に赤の発色には苦土石灰などを施用することとし、それぞれ専用の配合肥料が市販されています(写真⑥)。ただし、アルミや有機酸の量が少ない、あるいはそれらの働きを阻害する成分を持っている品種では青色にならないものもあります。ちなみに、日本の美術の中にアジサイが出てくるのは桃山時代以後のことで、江戸末期まではいずれも青色の花であって、西洋アジサイで見られるような紅色や桃色は全くないので、それらの普及は20世紀以降のことと考えられます。特に最近になって急速に改良が進展して次々と新品種の鉢植えが店頭に並べられています。

ところで、日本原産のアジサイが地球の反対側ではどう生育すると思われますか??
ブラジル南部のポルトアレグレという街の郊外にあるグラマド公園に行った時のこと、その入り口に高さ4mほどの“壁となった樹木”が何と“アジサイ”でした(写真⑦)。日本では冬に落葉しますが、ここでは薄雪が降る気候ではあるものの一年中青々と生育するらしく、おまけに花がらを摘み取るような習慣がないですから、数多くの蕾や真っ盛りの花、褐色や黒色に枯れた花がらなどがホント多彩に混在していて、しばし言葉を失いました。「所変われば、品変わる」の典型例でしたね。

アジサイの一般普及品種
(大原野・善峰寺2021.6.09.撮影)
赤花の西洋アジサイ
(宇治・三室戸寺2021.6.14.撮影)
白色超巨大花のアナベル
(2021.6.14.撮影)
額縁型の品種
(2021.6.14.撮影)
赤発色用の配合肥料
(2008.7.03.撮影)
アジサイの壁の前で
(ブラジル・グラマド公園2002.1.26.撮影)