2026年8月のお知らせ
見頃の花①
園のあちこちで紅紫色の可愛い5弁花を開いているのはフウロソウ科のゲンノショウコ(Geranium thunbergii)です。日本各地の山野に普通に見られる多年草です。本種は典型的な“忌地性”の植物で、同じ場所では続けて栽培できません。土をそっくり入れ替えるか、新しい場所に植える必要があります。果実の形態もそのことに対応しており、乾湿の差を利用したバネ仕掛けで種子を遠くに飛ばす構造となっています。栽培そのものは比較的容易です。茎は地面に伏してよく分枝し、夏から秋にかけて花を開きます。花の色は東日本では白色が、西日本では淡紅色が多いようです。果実は裂開して御輿の屋根の形に似ていることから”ミコシグサ”の方言名もあります。
盛夏の頃に地上部を採取して乾燥したものが生薬「ゲンノショウコ」です。和名「現の証拠」は実際によく効くという意味で、日本では古くから下痢止めの薬として利用されてきました。下痢にゲンノショウコ、便秘にドクダミ、胃腸病にはセンブリというように「和薬」の代表的な存在です。もちろん、『日本薬局方』にも収載されています。古来、土用に採るのが良いと言い伝えられてきましたが、この季節には有効成分の含量が最大となり、また花によって有毒なキンポウゲ科植物との見分けが容易であることなど、先人の教えはまことに理に適っています。タンニンを含有し、その煎液は小腸のぜん動を抑制する効果が絶大です。全く癖のない味で小さい子供にも飲ませることができるので、腸風邪の時などには大変重宝するお薬です。ただし、連続して服用すると胃に穴の開く『胃穿孔』という副作用も生じることがあるので、茶材などによる連用はしないこと。またアセモやただれなどに浴湯料としても用いられます。
見頃の花②
クチナシの木陰で蕾を上げてきたのがツリガネニンジン(Adenophora triphylla var. japonica)です。もう直ぐ青紫色の釣鐘状小花を数段に咲かせます。日本各地の山野に自生するキキョウ科の多年草で、根は白く肥厚して地中深く入っています。草丈は40~100cmにもなり、植物体を切ると白い乳液が出ます。非常に変異の大きい種で、特に花期以外の時期には葉の形、葉序などが大きく異なるものがあり、たびたび混乱させられます。
乾燥した根を「南沙参(ナンシャジン)」と称し、咳止め、去痰薬とします。健胃、強壮、抗真菌作用なども知られています。一方、本種の若芽は山菜の「トトキ」と呼ばれ、オケラとともにその美味さが横綱格とされ、嫁に食べさすのは惜しいと歌った長野県の俚謡もあるほどです。春に芽を摘み、和え物、お浸しとして利用します。ただし、「トトキ」という山菜には2種があって、韓国で「トトキ」または「トドック」と呼ばれるのはツルニンジンの根であり、その若芽を浸し物、和え物、天ぷら、汁の実、卵とじなどとして食べる由。いずれにしてもそんなに美味しいものであれば、一度は味わってみたいものですね。
見頃の花③
ハナハッカの横で白みを帯びた小花を咲かせているのはセイヨウヤマハッカ(Melissa officinalis)です。南ヨーロッパの地中海地域を原産とする高さ30~80cmの多年草で、葉に触れるとレモンの香りがするので、「香水ハッカ」や「レモンバーム」とも言います。成長が速く極めて丈夫な植物で、晩夏から晩秋まで花が咲き続ける蜜源植物としても有名です。果樹園に植えると、受粉を助けるハチを良く引き寄せるため、結果的に収穫量が増大します。
開花直前に収穫した葉を「メリッサ葉」と称し、精油約0.1%を含有しています。その抽出された精油(バーム油)はバラと同様に大変高価ですが、駆風、発汗、鎮痙、鎮静などの作用があり、アロマテラピーに利用されています。情緒を明るく晴れやかにする効果があり、ショック、パニック、ヒステリーなどに強力な鎮静効果を示してくれます。また飲食物の香り付けやガム、歯磨き、キャンディーなどの賦香料、入浴剤、化粧品、ポプリなどにも用いられています。
見頃の花④
西洋ヤマハッカ横の駐車場に沿って橙黄色のユリに似た花を咲かせるのはホンカンゾウ(Hemerocallis fulva)です。中国中部原産の多年草で、日本へは昭和の戦前に渡来しました。花は一重咲きの三倍体で、果実はできません。属名はギリシア語の「1日」と「美しい」の意で、花が1日で萎むことによります。また最近の遺伝子解析によって、ユリ科からワスレグサ科として独立した扱いに変更されました。日本の野山には一重咲きのノカンゾウと八重咲きのヤブカンゾウなどが自生しています。この仲間は戦後北アメリカで交配によって大きく品種改良が行われ、今では園芸植物として世界中で広く愛培されています。
『中国薬典』によると、根を利尿剤として水腫、血便、黄疸などに用いる、とされています。一方、花蕾を採取して熱湯で数分ゆがいた後、乾燥したものが中国料理に使われる「金針菜」「黄花菜」です。水で戻してスープの具にすることが多い食材です。
いずれの種類も「カンゾウ」と付き、マメ科のカンゾウ属植物=「甘草」とよく間違えられますが、こちらは「萱草(カンゾウ)」と書きます。これらの若芽、蕾や花は甘味とぬめりがあって、山菜としては癖がなく非常に美味しいものです。軽く茹でて酢味噌和えで食べるのがお勧めです。
見頃の花⑤
東玄関の反対側にある背の高い黄色い花がオミナエシ(Patrinia scabiosaefolia)で、これも最近の遺伝子解析によってオミナエシ科からスイカズラ科へ鞍替えされた植物です。北海道から九州まで日当たりのよい山地に生える多年草で、昔から人々の生活に溶け込んでいた草ですが、最近では里山が開発されたり、山林の適度な下刈りが行われなくなったことから、野生品が極端に少なくなって絶滅危惧種に指定されています。栽培品は観賞用に切り花などにも多用され、7月の早咲き種や矮性になったものなどが育成されています。語源は「女飯」の意味で、花を粟飯に例えたものとされます。また『万葉集』(1537)の巻8に山上憶良が詠んだ「秋の七草」の一つとして「女郎花」と詠んでから、その名が定着したらしく女性との結びつきが強い植物です。
中国では、本種の臭いが腐った豆醤に似ているため、根を「敗醤(ハイショウ)」と呼び、利尿、解毒、消炎、排膿などの作用があるとされています。
見頃の花⑥
秋の七草として、よく繁茂したフジバカマとオミナエシの陰でひっそりと花を咲かせているのがキキョウ(Platycodon grandiflorus)です。これら3種は切り花・観賞用として広く栽培されていますが、いずれも野生株は環境省の絶滅危惧種に指定されています。
本種は日当たりのよい草地に自生する多年草で、特に北海道、東北、信州地方に多く生えていて、夏から初秋にかけて花を咲かせます。草丈30~90cmで、茎や葉を傷つけると乳液が出るのが特徴です。
本種の根を乾燥したものが生薬「桔梗根」です。主成分はサポニンで、漢方では鎮咳・去痰、排膿、抗炎症、抗アレルギーなどの諸作用が認められています。薬用として屠蘇散の材料にも使われています。
一方、根にはイヌリンという貯蔵成分が多く含まれていて、若干の有毒成分を茹でて水に晒せば、揚げ物、煮物、漬け物等に利用できます。特に朝鮮半島では「トラジ」と称し、好んで食用にされていたようです。秀吉の朝鮮出兵の折に我が国から持ち込まれたトウガラシとの相性が抜群で、キキョウ根の有害な作用を解消することがわかり、韓国ではその後独特の食文化へと進化した経緯があるようです。
日本では花の美しさを「秋の七草」の一つ「朝顔の花」として多くの歌に詠まれ、また家紋などの文様にも用いられています。例えば、戦国時代の明智家などは有名ですが、地方によっては本種を忌み嫌う風習もあるようです。お盆に精霊を山野から迎える花と考えられていたため、屋敷内に植えることを嫌ったり、古戦場や刑場跡を桔梗塚や桔梗ヶ原とする例も多いようです。

淡紅色花のゲンノショウコ


ツリガネニンジン


ホンカンゾウの花


なっているキキョウ

