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ある日突然に芳香を放って自己主張するキンモクセイ

秋の彼岸を過ぎる頃に散歩すると、どこからともなく甘い香りが漂ってきて(写真①)、思わず目当ての樹の在り処を確かめてしまいますよね。匂いの素となるキンモクセイ(Osmanthus fragrans var. aurantiacus)はモクセイ科の常緑小高木で、日本ではジンチョウゲ、クチナシと合わせて三大芳香木の一つに数えられ、庭園樹や街路樹として植栽されています。高さ10~18m、幹の直径は50㎝ほどに成長します。枝はよく茂り、葉は長楕円状の披針形で全縁、有柄で対生し、質は堅い。春から夏にかけて花芽分化し、10月上旬、葉腋に金橙色の小花を多数つけて、ある日突然に芳香を放って自己主張を始めますが、花の寿命は1~2週間ほどです。

ところで、植物が強い匂いを放つのは授粉を手助けしてくれる昆虫を呼び寄せるのが主な目的と考えられますが、キンモクセイの花にはハエやハチがごく稀に来るだけで、特定の訪花昆虫との結びつきはこれまでの調査では確認されていません。原産国である中国の調査でも同様にチョウの仲間は1種も訪れないことが確かめられています。むしろモンシロチョウを忌避する成分(γ-デカラクトン)が検出されているくらいです。また夜の訪花昆虫についてのデータは重要と思われますが、残念ながら夜に行われた研究はほとんどないようです。したがって、現在のところキンモクセイが何のために甘い匂いを放出するのかは謎のままです。

雌雄異株で、日本のものは雄株とされ、まず結実しません。従来、中国原産で江戸時代(17世紀ごろ)に雄株だけが導入されたものとされてきましたが、最近の見解では、花が淡黄色で熊本・鹿児島両県の照葉樹林内に生えるウスギモクセイ(forma thunbergii)(写真②)を基原とする考えが有力となっています。和名の由来は、樹皮がサイ(犀)の足に似ていることで「木犀」、橙黄色の花が「金」となったものです。中国名は「丹桂」で、丹は橙黄色の花を表し、桂はカツラではなくモクセイ類の総称です。中国の観光景勝地・桂林はそれらの茂る街を意味していて、日本での橙黄色と違って赤色花の樹が数多く茂っています。

日本ではもっぱら庭木として観賞するだけですが、中国では花冠を乾燥させて茶材や香味料として利用します(写真③)。白酒に漬けたものが「桂花陳酒」で、唾液や胃液の分泌を促進させる作用があります。茶に混ぜて「桂花茶」の原料とするため大花丹桂や朱砂丹桂などの品種があって大規模に栽培されています。滋養保健、食欲増進に効果的です。蜜煮にしたものは「桂花醤」と呼ばれる香味料です。さらに、花の砂糖漬けは「桂花年羹」という正月用のお菓子です。

余談ですが、汲み取り式便所が主流で悪臭を発するものが多かった時期には、甘くて強い香りを発するキンモクセイが便所の近くに植えられていました。そのことから1970~90年代まで本種を模した香りがトイレの芳香材として採用・利用されてきたため、一部年齢層においてはトイレを連想させることがある由。いい匂いにも世代間で感じ方のギャップが相当あるようです。

写真① キンモクセイの花(2024.10.05.撮影)
写真② ウスギモクセイの花(2024.10.05.撮影)
写真③ キンモクセイの花冠(2024.10.05.撮影)

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