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重陽の節句(旧暦9月9日)にキクを愛でる

旧暦9月9日は重陽の節句で、今年は10月4日がその日に当たります。古く中国河南省南陽の甘谷の水には上流の山に生えるキクの花が落ちて流れるため滋養があり、その水を飲む人々は長寿であったと伝えられ、その故事からキクの葉・花と米で醸した“菊酒”を飲んで邪気を払い、延命長寿を願う行事が生まれました。その風習が伝わった日本では杯の酒に菊の花を浮かべて飲む『菊の宴』が行われ、また『菊の被綿(キセワタ)』は前日の夜にキクの花に真綿を被せ、夜露を介してその香りを移し、その綿で体を拭うと老いが去り、寿命が延びるとされてきました。

生薬の「菊花」はキクの頭状花を乾燥したもので、解熱、解毒、鎮痛、消炎、血圧降下作用などがあり、中高年層に多い顔面痛、頭痛、高血圧症などの改善を目的として漢方薬に配合されています。また菊花を入れた枕は安眠を誘う効果があるとされています。ただし、残念ながら、日本では薬用菊は全く生産されていません。日本に輸入される菊花は主に「黄甘菊」ですが、薬草園で栽培されている“杭白ギク”(写真①)は、1980年に中国馬橋人民公社から導入したもので、主に茶材として利用されるものです。その頭花乾燥品にはフラボノイドが多量に含まれていて、福井県立大学生物資源学部・村上茂教授の研究によると、食事後の血糖値上昇を有意に抑えるとともに、抗酸化、抗炎症作用などもかなり強いことが判ってきました。

現在栽培されている観賞用のキクは雑種起源の植物で、中国中部に生えていた朝鮮ノギクとハイシマカンギクとの交配から生まれたとされています。東洋では最も古い栽培植物の一つで、『延喜式』(927)には黄菊の花が讃岐、阿波、若狭、下野、近江、甲斐の国から宮廷に献上されたことが記されています。わが国最初の花卉園芸書である『写本花段綱目』(1664)には80品種が、また『花壇地錦抄』(1695)には250品種がそれぞれ収載されて、わが国でも盛んに育種が進められた様子がうかがえます。現在日本では切り花として最も多く生産されるのがキクで、切り花だけで年間20億本を越え、花屋の店頭には一年中並べられています。

一方、アマギク(料理菊・食用菊とも言う)は苦味がなく歯ざわりと食味のよいものを選んだものの総称で、小菊から大輪咲きまで60品種ほどが育成されています。特に東北地方での栽培が盛んで、青森県の「阿房宮」は黄色の生花を蒸して乾燥加工した「南部菊のり」として出荷され、山形県や秋田県庄内地方で生産される「以ての外」(写真②)は淡紫紅色の八重咲き中輪で、あまりの美味しさからその昔殿様が「下々の者に食わせるのは以ての外じゃ」と言ったのが語源(??)とされているものです。

ところで、黄色中輪咲きの「坂本菊」(写真③)は、大津市の郊外・比叡山坂本地区で古くから細々と栽培・利用されてきた食用菊ですが、その来歴は中国から1200年前に渡来したとされたり、かつては比叡山の僧らの精進料理として珍重されたなどとされながら、真実のところは全くの謎とされています。松尾芭蕉が元禄4年(1691)に近江(滋賀県)堅田で“菊のなます”を詠んだ句がありますが、案外、その“坂本菊”を賞味したのかもしれませんね。比叡山が紅葉に染まる頃、明智家の菩提寺・西教寺では”坂本料理菊振興会”の主催で「菊料理を食べる会」が行われ、食前酒からゼリーまでのフルコースを楽しもうと年毎に参加者が増え続けているようですよ(写真④)。

菊の花酒の作り方;(黄金色をした不老長寿の薬酒、高血圧の予防)
 ① 清潔な保存瓶に、乾燥した菊花100gとホワイトリカー1.8㍑、蜂蜜カップ1杯または
  砂糖80gを入れ、冷暗所に置く。
 ② 菊の花は2~3ヶ月後に取り出して、出来上がり。淡い黄金色に仕上がるが、苦くて
  飲みにくいので、適当に水で割って飲む。
  1回に盃1杯、1日に2回が限度。疲労回復、食欲増進、頭痛・頭重、眼精疲労などに
  効果がある。

杭白ギク(2021.11.02.撮影)
“以ての外”(2009. 1.23.撮影)
黄色管弁中輪咲きの坂本ギク
坂本菊の栽培・収穫風景(2015.11.01.撮影)
好評の菊懐石御膳(2015.11.23.撮影)
菊御膳の参考メニュー

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