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お知らせ(毎月、更新中です)

トピックス2025年8月(葉月)の情報

朝顔に釣瓶とられてもらひ水
               加賀千代女

近頃はあまり見かけなくなった朝顔。花言葉の一つに、「あなたに絡みつく」が有ります。これは、竿や柄に絡んで成長する朝顔の特徴を表しています。

一方、つる性植物の雑草は、他の植物に絡みつき、旺盛な生命力と繁殖力を持ち薬草園でもなかなかの厄介者です。
湧き上がる入道雲と緑陰のコントラストが際立ち、色彩豊かな表情をみせる真夏の薬草園。

ボランティアの皆さんの、千代女のような優しい思いやりの心に支えられ、今日も訪れる人に癒しと安らぎのひとときを演出してくれます。

明日も爽やかに
入道雲と緑陰
ムクゲに絡まった雑草
繊細な美しさオミナエシ
今年も実を付けた温州ミカン

トピックス8月の開花情報

8月の開花情報  (東玄関の奥から)
① アサガオ(ヒマラヤ山麓に野生する一年草、淡青色花、種子は利尿と駆虫を兼ねた峻下剤)
② ヤナギタデ(葉が焼きアユ用“タデ酢”の原料、「タデ食う虫も好き好き」の語源で、猛烈な辛味)
③ ムクゲ(白花と紫桃色花の2種類、一日花、樹皮を薬用とする、韓国の国花)
④ ゲンノショウコ(桃紫色の美花、茎葉の乾燥品が下痢止めに著効、いや地が顕著)
⑤ ミシマサイコ(日本特産の薬用種、絶滅危惧種、黄色小花を次々に咲かせる)
⑥ キクニガナ(薄青色の美花で、早朝から昼過ぎに咲く半日花、結球葉が高級食材の“チコリ”)
⑦ ツリガネニンジン(薄青色の鐘状花を数段に咲かせる、新芽は山菜として美味)
⑧ エビスグサ(黄色の蝶形花、果実は弓上に曲がる、種子を“ハブ茶”に利用)
⑨ キキョウ(秋の七草の一つ「朝顔の花」で、根に去痰作用のあるサポニンを含有)
⑩ オミナエシ(秋の七草の一つ「女郎花」で黄色の花、根に醤油が腐ったような特有の臭い)
⑪ ハトムギ(果実が茶材となる、目立たない黄緑色の花、肌荒れ・イボ取りの妙薬)
⑫ トウゴマ(大きな赤褐色の葉が目立つ、葉陰に黄色の房咲き、種子が峻下剤)

トピックスワタ品種は有史以前に確立し、その成り立ちに人の力は介在していない

夏に黄白色の大きな花(写真①)を咲かせるワタ(Gossypium)は、繊維作物として世界中で広く栽培されています。本来、木質化する多年草ですが、栽培上は一年草として扱われます。世界的には栽培面積の最も多い作物で、中国、アメリカ、インド、ロシアなどで大量生産されています(写真②)。綿花は種皮細胞の一部が毛として発達したもの(写真③)で、白色の長い綿毛は紡織用や脱脂綿、セルロース原料として利用されています。また繊維を除いた種子(写真④)には15~20%の油脂分が含まれ、微量含まれる有毒成分をアルカリ処理で取り除けば優良な食用油となります。動脈硬化や血栓の原因となる悪玉コレステロールの体内吸収を防ぐ働きがあります。また綿実サラダ油は、揚げ油として素材の旨みを引き出すとともに胸焼けしないといった特徴を持つことから、植物油の中でも高い評価を受けています。高級ツナ缶のベースオイルとして、また意外なところでは手延べ素麺の製造にも使われていますよ。

ワタが最初に栽培され、その繊維が利用されるようになったのはインドのインダス川流域で、今から4~5000年前のこととされています。紀元前2500年頃と推定されるパキスタン領のモヘンジョ・ダロ遺跡で、銀の小壺に付着していた布はアカネ類で染めたワタの織物です。ところが、ペルーの北部海岸、ワカ・プリエッタの紀元前3000年頃の初期農耕遺跡からもチョウの文様をあしらったワタのレース織物が出土しています。さらに、メキシコでは紀元前5800年頃に栄えたコスカトラン期の洞窟遺跡からワタの実が発見されました。つまり、ワタは数千年前から新・旧両大陸で栽培・利用されていたことになります。

最近の細胞学的な研究によれば、13対の大きな染色体(A)を持つ二倍体のワタはアフリカ南部のサバンナ地帯を起源とし、古くアラビア半島やシリア地域に伝播され、インダス川流域で栽培型が成立したと推定されることから、一般に「アジアワタ(G. herbaceum)」と呼ばれています。この栽培型から、ずっと後に栽培型のキダチワタ(G. arboreum)が起源されました。

これに対し、ペルーまたはボリビアに始まった野生のワタ(G. raimondii)は「アメリカワタ」と呼ばれ、新大陸の自生種に特徴的な別の13対の小さな染色体(D)を持っています。現在、広く栽培されている新大陸の四倍体(AD)のワタは、いずれも2倍体種であるアジアワタとアメリカワタが交雑し、続いて染色体数が倍になって生じたと推定されています(写真⑤)。

では、いつ、どこで、どのようにしてこの交配が起こったのか。まず実験的に、ワタの蒴果や種子が海水に浮き、長期間生存力を失わないことが確かめられました。この結果、旧大陸のワタが海流に乗ってアフリカから新大陸に到達し、そこで新大陸産のワタと交雑して雑種を生じたと考えることができます。

一方、1910年ドイツのウェゲナーが提唱した有名な“大陸移動説”によれば、かつて地続きであったアフリカとオーストラリア、南アメリカが約1億3500万年前から分離し始め、またアフリカとオーストラリアも約100万年前から分離したという。新旧両大陸がまだ一つの大陸だった頃、そこには大きな染色体を持つアジアワタと小さな染色体を持つアメリカワタの野生種がともに分布し、大陸が分離した後に雑種が生じたとする考え方があります。もっとも現在、新大陸ではアジアワタ系の野生種は発見されていませんが、アフリカと南アメリカの間にあるサント・ファゴ島にはこれに近縁のワタが見出されたことから、ほぼ後者の考え方が正しいものと支持されるようになっています。いずれの説にしても、この交配が極めて古い時代に起こったことだけは確かで、アメリカ大陸に人間が渡るずっと前のことと考えられています。したがって、ワタの起源・成立については、人間は全く関与しなかったと考えるのが妥当と思われます。

現在広く栽培されているアメリカワタにも、メキシコおよびグァテマラを中心とするリクチメン(G. hirsutum)(白図①)と、ペルー、ボリビアを中心としたペルーワタ(G. barbadense)の2種があります。ともにアジアワタよりは繊維が長く、糸を紡ぐのにも便利なものです。特に前者は温帯から寒帯にまで広く気候の変化にも適応性を持つので、北アメリカ、ロシア、中国北部などで栽培・生産されるようになりました。また後者はより繊維が細長くて乾燥気候に強いので、エジプトやスーダンなどのアフリカ、あるいはオリエント一帯で栽培されるようになって、エジプト綿やスーダン綿として大生産地帯となっています。

写真①
ワタの花
(2007. 9.09.撮影)
写真②
大規模栽培における綿花の収穫
(2015. 6.17.入手)
写真③
世界中で栽培される陸地ワタ(2007. 9.09.撮影)
写真④
市販の赤ワタと緑ワタ
(2002. 3.15.撮影)
写真⑤
ペルーの有色ワタ
(2002. 3.15.撮影)
白図①
陸地ワタの白図
(2009. 8.17.作画)

トピックス2025年7月(文月)の情報

  プラタナス夜も緑なる夏は来ぬ
                石田 波郷

今年は例年より早い7月上旬の梅雨明けとなりそうです。

降り注ぐ太陽の光を浴びて、天に向けて勢い良く伸びるシンボルツリー・ヒポクラテス(プラタナス)に、みなぎる生命力を感じます。

七月七日は七夕。季節の節目を意味する五節句の一つで、夜空に煌めく天の川に想いを馳せながら、短冊に願い事を書く江戸時代から伝わる夏の風物詩です。
あなたは何を願いますか。

鮮緑の草木や花に包まれた薬草園で、入院されている患者さんやご家族の心の安らぎを願ってみてはいかがでしょうか。

 七夕飾り
ムクゲ
ムラサキバレンギク
チョウセンアザミ
アカザ
キキョウ

トピックス7月の開花情報

開花情報(東玄関の奥から)
① 紫バレンギク(紫紅色の大輪、火消しの“まとい”に似た花形、乾燥花向き、免疫活性サプリの原料)
② アサガオ(ヒマラヤ山麓に野生する一年草、淡青色花、種子は利尿と駆虫を兼ねた峻下剤)
③ ムクゲ(白花と紫桃色花の2品種、一日花だが開花期間が長い、樹皮が水虫薬)
④ サボンソウ(白花と紅桃色の2種類、根に泡立つ成分があり、洗剤としてシャボンの語源)
⑤ ハマボウフウ(砂浜に咲く白花、褐色の種子をつける、新芽が汁の具材、絶滅危惧種)
⑥ タイマツバナ(北米原産の多年草、夏の花壇を彩る花で、松明の炎を連想させる赤花)
⑦ ウイキョウ(黄色の小花、種子はハーブ名:フェンネル、香辛料・風邪薬、未熟果実はやや甘みあり)
⑧ ウツボグサ(青紫の穂花で、直ぐに茶褐色となる⇒夏枯草(カゴソウ) 、利尿効果大で痩身ハーブ)
⑨ サジオモダカ(水生植物、白色の小花が次々に毎日咲く、一日花、根茎に強い利尿作用あり)
⑩ キクニガナ(薄青色の美花で、早朝から昼過ぎに咲く半日花、結球葉が高級食材の“チコリ”)
⑪ 西洋オトギリソウ(レモンの香りを有する黄色5弁花、軽度のうつ病に効くとされるサプリ原料)
⑫ アマチャ(アジサイの仲間で、滋賀県朽木辺りのスギ林下に散見、葉を発酵させる甘い茶材)
⑬ 朝鮮アザミ(ハーブ名:アーティチョーク、青紫色の花、花托が食用)
⑭ 西洋ヤマハッカ(蜜源植物として有名、白みの小花で、ハーブ名:レモンバーム)
⑮ ハナハッカ(ハーブ名:オレガノは貴方の元気を取り戻すための香り、淡紅色の穂状花)
⑯ オニユリ(橙黄色の花、秋に肥厚する鱗茎が茶碗蒸しの具材)
⑰ 西洋ノコギリソウ(赤花と白花があり、葉がノコギリ状、根から出る分泌液は害虫の忌避剤)
⑱ オミナエシ(黄色の花、秋の七草の一つ、根に特有の臭い)
など

トピックス古代ギリシャの時代から知られた洗剤・サボンソウ

梅雨時期になると濃い緑の中に真っ白(写真①)や淡桃色(写真②)の花を咲かせるのが、ナデシコ科のサボンソウ(Saponaria officinalis)です。葉にサポナリン、根にはサポルブリンというサポニン成分を含むため、古代ギリシャの時代から洗剤として使われた植物です。植物にとってこれらの成分は吸水や保水に関与していると考えられています。葉や根を水に入れて掻き回すだけで簡単に泡立ちます(写真③)。そのため和名はシャボンの語源であるラテン語の「サボ」に由来し、また英名も soapwortで「石鹸草」を意味しています。

ヨーロッパから中央アジア原産の多年草です。日本へは明治初期に伝えられ、花が美しいため花壇用宿根草としてもよく植えられています。草丈は30~80cm、根茎が横走して繁茂します。葉は楕円状披針形で光沢があり、対生して3脈が目立ちます。初夏から夏にかけて、枝端に径2~3cmの5弁花を着けます。花色は淡紅または白色ですが、紅色花や八重咲き品種もあります。耐寒性があり、秋または春に植えれば、あまり手をかけずに毎年奇麗な花を咲かせます。繁殖は春に株分けで殖やすほか、よく結実するので種子を採り、種子繁殖でも容易に殖やせます。

古くから薬用植物として知られ、この根を乾燥したものが「サポナリア根」(写真④)で、去痰薬とするほか慢性皮膚炎などに体質改善外用薬として用いられました。また胆汁分泌促進や消炎薬としても利用されますが、作用が激しく、用量を間違えると激しい下痢を引き起こすので注意が必要です。

石鹸成分のサポニンは水と油どちらにも馴染みやすい性質を兼ね備えており、天然界面活性成分として肌に負担をかけずに肌バリアを残しつつ汚れを優しく落とすことができます。古代ギリシャの薬物誌『ディオスコリデス』に収載され、羊毛を晒すのに利用されていたようです。現在、欧州では傷つけることが許されない国宝級文化財の衣裳や絨毯の専用洗剤、あるいはセレブ専用の高価な超高級ソープなどに利用されている由。

写真① サボンソウの白花
(2013.10.01.撮影)
写真② サボンソウの淡桃花
写真③ 葉の泡立ち
(2025.6.15.撮影)
写真④
 サポナリア根の泡立ち

トピックス2025年6月(水無月)の情報

  薄月夜 花くちなしの 匂いけり
                    正岡子規
六月、今年も雨の季節がやって来ました。若葉をぬらして降る翠雨(すいう)。新緑が濡れるたびに、深い緑色へと移り変わります。梅雨の晴れ間、薬草園では純白のくちなしの花の甘く上品な香りが漂い、シンボルツリーの根元には、額アジサイに似たアマチャ。背丈が高く大きな紫の花を咲かせるチョウセンアザミ、セリ科で黄色の小花を付け糸状の葉が特徴のウイキョウなどが、一層華やかで美しく共演します。明日は晴れたらいいね。

翠雨に濡れる薬草園
アマチャ
純白のくちなしの花
チョウセンアザミの蕾
ウイキョウ

トピックス6月の開花情報

6月の開花情報  (東玄関の奥から)
① ドクダミ(十字形の白花、独特の臭みがある、茶材としての収穫期)
② 紫バレンギク(紫紅色の大輪、火消しの“まとい”に似た花形、ドライフラワー向き)
③ アマドコロ(葉に白斑入り、葉裏に鐘形の白花が見える、根茎が強壮・強精薬)
④ カザグルマ(6~8弁の白色一重咲き大輪、根をリウマチや神経痛の痛み止めに利用)
⑤ キンセンカ(金色の盃状の花形、花期が長いので、学名は1ヵ月を指す言葉)
⑥ コエンドロ(淡桃白色の小花、花と果実には芳香、葉はカメムシ臭い、“パクチー”)
⑦ カミツレ(白色は萼片、花後に盛り上がる黄色のドーム部にリンゴの香り)
⑧ 西洋ワサビ(白色小花、根茎の薄切り“ホースラディッシュ”はローストビーフの必需品)
⑨ ハマボウフウ(海辺の砂地に咲く白花、若狭地区では絶滅か?)
⑩ カレープランツ(全草にカレー臭、花は黄褐色、乾燥してポプリに利用)
⑪ クチナシ(白花で、甘い芳香を放つ、果実が黄色の着色材)
⑫ 西洋オトギリソウ(黄色小花、抽出物をサプリに利用 “セント・ジョンズ・ワート”)
⑬ クララ(草原に自生、黄白色花、枝葉はかつて蛆虫殺しで便所に投入)
⑭ アマチャ(アジサイの仲間で、滋賀県朽木辺りのスギ林下に散見、葉を発酵させた甘い茶材)
⑮ 薬用サルビア(青紫色の花、葉がソーセージの具材に利用、ハーブ名:セージ)
⑯ 朝鮮アザミ(ハーブ名:アーティチョーク、青紫色の花、花托が食用)
⑰ ジャコウソウ(ハーブ名:タイム、茎葉に触れると特有の芳香)
⑱ オニユリ(橙黄色の花、秋に肥厚する鱗茎が茶碗蒸しの具材)
⑲ ルリヂシャ(青色(マドンナブルー)の星状花、キュウリのような風味で生食できる)
⑳ ウスベニアオイ(ビロード色の花、夏を代表する庭の花、花の乾燥品を茶材とする)
㉑ マグワの果実(中国からの渡来種で、特に実成りが良い選抜個体、暗紫色の果実が「マルベリー」)
㉒ イヌバラの果実(花後に肥大した橙赤色の果実が婦人に好まれる茶材「ローズヒップ」) など

トピックス大きな葉の中心に芳香花を咲かせるホオノキ

この時期、強い風の日に山裾を見ると銀白色の大きなかたまりの樹が目につきます。最も大きな葉を持つホオノキ(朴木 Magnolia hypoleuca)という、日本特産の落葉高木の葉が風の力によって裏返って見えるからです。北海道から九州に至る山地に自生していて、枝が少なく真っ直ぐな樹形となって高さ20~30m、幹の直径1m以上に達するものもあります。枝の先に輪生状に互生する大きな葉は古くから食器代わりや飯、餅、味噌などの食物を包むのに使われてきました。中でも岐阜・飛騨高山の”朴葉味噌”は有名ですね(写真①)。また材は軟らかく縦にも横にもカンナが利いて木目が美しいので、版木、製図板、工芸材などのほか、昔から刀の鞘としても賞用されるなど、この木は古くから人の生活と深く結びついて親しまれてきました。

倒卵状長楕円形の葉は、長さ20~40㎝、幅10~25㎝という長大なもので、表面は明るい緑色、裏面は長い軟毛が散生しているので銀白色を帯びています。この仲間で北米産の大葉ホオノキ(M. macrophylla 英名:great-leaved magnolia)の葉は長さ1mにもなるところから、しばしば“押し葉標本”が植物園の目立つところに展示されたりしています。また中国・浙江(セッコウ)省には葉の先端が2~4cm陥没して“ハート型”を呈する凹葉ホオノキ(var. biloba)という変りダネもあります。

初夏(5~6月)の頃、香りのよい白色大形の両性花を枝先に開きます(写真②)。径15㎝以上、花弁は6~9枚、初めは白色で後に黄変しますが、花は山の新緑の中でよく目立ちます。雌性先熟性があり、自家受粉を避ける仕組みを備えています。果実は長楕円形の松笠状で、秋に成熟すると開裂し、多数の赤い種子を露出して糸で垂れ下がるのが特徴です(写真③)。ただ、種子は一旦乾燥させると直ぐに発芽力を失います。自然では偶然湿ったコケや腐植質の上に落ちたタネだけが芽生える可能性が高いので、谷筋に沿った形で実生苗が散見されるのです。赤く熟したら直ちに果肉を取り去って、水苔に播くのが苗作り最大のポイントです。底水をして管理すると、翌春にはよく発芽します。成長はすこぶる早く、2年間で30~50cmの高さになって定植できます。大きな花は見応えがあって魅力的なのですが、大樹になって狭い空間には収まり切らないので、残念ながら薬草園には植栽することができません。

日本産ホオノキの樹皮は「和厚朴(ワコウボク)」と呼ばれて正品の代用とされています(写真④)。生薬「厚朴」の正品は中国南部に広く分布するカラホオノキ(M. officinalis)の樹皮を乾燥したもので、鎮痛・鎮静、抗痙攣、筋弛緩、中枢抑制、胃運動促進、腸管運動抑制、抗菌、抗潰瘍など多くの薬理作用が認められています。ただし、日本でその基原植物を保有・植栽している薬草園はほとんどありません。何故なら、世界中の植物園が取り組んでいる“種子交換制度”では原則「乾燥したタネ」しか供与されず、モクレン科にとっては致命的な扱いとなっているからです。事前活動として相互親交を深めたうえで「湿らせた水ゴケに包埋した形の送付」を依頼しても、最終段階で中国当局の検閲によって“没収”されてしまいます。重要生薬類の基原植物については、特別に厳しくチェックされるようです。

ところがある時(私が現役の頃)、名古屋市在住の方から「カラホオノキの成木を譲りたい」旨の申し出があり、喜んで荷造り送料の手配をして大株を引き取りました。聞けば、中国のマグノリア同好会の会員として永年活動された方で、中国人の会員から完熟種子をもらい受け、ご自身で苗作りをされた由。これで正品の基原種であることを確信できました。移植後4年が経過して樹高が3mほどになった春先、念願の花芽を着けました。葉は楕円状倒卵形で長さ45cm、幅20cm、日本産とほぼ同じです。枝の先端に花を単生し、花弁は10~15枚でやや細長くて白色。外側の萼片は花弁とほぼ同じ大きさで9~12枚、淡緑色を呈していました(写真⑤)。日本産とは明らかに異なる花容に感動した記憶があります。今では立派な大樹になっていることでしょう。

写真①
飛騨高山の朴葉味噌
写真②
ホオノキの花(2010.5.21.撮影)
写真③
ホオノキの果実とタネ(2010.10.25. 撮影)
写真④
和厚朴(2010.6.18.撮影)
写真⑤
カラホオノキの花(2011.6.12.撮影)

トピックス2025年5月(皐月)の情報

草木に輝き戻る五月かな
                      詠み人しらず

爽やかな風が気持ちよい季節を運んできました。

薬草園から望む後瀬山(万葉集に詠われ、枕草子にのち瀬の山よそに見るぞをかしきと描かれている)の黄緑色が、目にしみます。薬草園では、10年前に親株の種から育てた実生(みしょう)ボタンが、4月下旬に赤紫色をした2輪の花を見事に咲かせました。

ボタンは、一般的にシャクヤクに接ぎ木して育てますが、種から10年かけて自根株を育て、今年はじめて開花した薬草園生まれのボタンは大変珍しく、百花の王の名にふさわしく、堂々とした姿はまさに命の炎。

福井新聞に大きく掲載され、話題となりました。

一年で一番みずみずしいこの時季。癒やしのスポット薬草園では、初夏の眩しい陽差しを受けて、きらきらとその身を輝かせるシャクヤクなどの生命力にあふれた薬草たちが、五感を満たしてくれます。

黄緑色が目にしむ後瀬山
命の炎実生ボタン
福井新聞に掲載され話題に
咲き始めたシヤクヤク

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