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トピックス日本のヒガンバナは三倍体でタネができない
秋の彼岸になると日本各地の路傍や土手などで真っ赤なヒガンバナ(Lycoris radiata)が咲き出し(写真①)、イネ刈り後の田んぼの畔みちでは特に目立って“里山の風物詩”ともなっています。地球温暖化で天候不順が続く昨今ですが、この花だけは開花時期がほとんど変化しません。一般的な植物では気温の変化あるいは日長のどちらかによって開花時期が規定されるのですが、このヒガンバナはその両方の条件が作用しますので、せいぜい1週間のズレしか生じないのです。地下にある鱗茎が毎日の気温の変化を計算して花茎を出す時期を的確に決めているのですが、ラッキョウを大きくしたような鱗茎を切ってもそんなコンピュータ並の仕掛けは見つかりません。まず地下にある鱗茎から花茎だけを伸ばして開花し、花が終わって10日もすると球根の下に白い根を伸ばしながら一斉に緑の葉を茂らせます。
花の後、タネを稔らせることはありません。日本に野生するものはすべて三倍体(2n=33)のため種子ができないのです。増殖は専ら鱗茎の分球によるものです。しかし、中国に分布するもの(var. pumila)は二倍体(2n=22)でよく結実します(径5㎜ほどの黒色球状)。もともと中国から渡来したのに、どの時点で何故に変化したのか『植物界の七不思議』の一つとされていましたが、最近の調査で揚子江流域には両者が隔離的に混在していることが判ってきました。古い時代に偶々三倍体だけが渡来し、生活に根ざした形で全国に繁茂したものらしいのです。例えば、他の球根植物に比べて葉の量が多く、かつてはその葉を荷造り用のクッション材としても利用したようです。また鱗茎には有毒アルカロイド成分のリコリンが含まれていますが、砕いてよく水に晒すとデンプンとして食べられますから、日本への渡来は“救荒作物”として僧侶運搬説が定説となっています。さらに、田の畔や土手に多いのは、野ネズミが穴を開けないよう毒性のある球根で防いだからと思われます。
生薬名を「石蒜(セキサン)」と称し、鱗茎を去痰、催吐、鎮痛、降圧などに用います。民間療法では、浮腫や肩凝りに鱗茎1個をすり潰し、足裏の土踏まずに塗り油紙で覆って寝るという療法が知られています。成分としては毒性の強いものが数多く含まれますが、そのうちの一つの成分(ガランタミン製剤)が2011年3月にアルツハイマー型の認知症治療薬として販売が開始されました。
本種の地方名(里名)は1000程度あると言われています。仏教に関連してマンジュシャゲ、テンガイバナ、ホトケバナなど。死者を連想するソウシキバナ、シビトバナ(西日本)、ユウレイバナ(上総)、ジゴクバナなど。動物的なものにはキツネバナ、キツネノカンザシ、ヘビバナなど。味覚・毒性からシタマガリ(近江)、シタコジケ(大和)、シビレバナ(西播磨)、テクサリバナ(能登)、ハヌケグサ(豊後)など。植物特性からオミコシ、イカリバナ、オリバナ、ステゴバナ(筑前)、ショウジョウバナ(陸前)などがあります。このように日本ではとかくお墓と結びつく印象から“不吉な花”として毛嫌いされることも多く、家に持ち帰ると“火事になる”などと言い伝えられていますが、これは“有毒な汁液が子供たちの手に触れないよう”戒めたものと考えられます。園芸観賞の視点から見ると花形や花色が意外とエキゾチックで欧米ではむしろ好評で、かつては輸出球根の上位を占めていたのですよ。
ヒガンバナの展示規模で日本一を標榜しているのは、巾着田(キンチャクダ)曼殊沙華公園です(図 ①)。埼玉県日高市高麗本郷125-2(TEL:042-982-0268)にあります。面積22haに500万本の赤い花が絨毯のように咲き乱れる景観は実に壮観で(写真②)、大学時代の友人が毎年のように写真を届けてくれます(写真③)。また三倍体でタネが稔らないために花色の変化はほとんどないのですが、中には除草剤の影響などで染色体異常が生じるようで、比叡山坂本でも桃色花などが稀に見つかります(写真④)。九州では同じような花形の白花種や黄花種などが分布しています。

写真①
比叡山坂本のヒガンバナ
(2023.10.01.撮影)

巾着田曼殊沙華公園の案内パンフ

巾着田曼殊沙華公園の開花景観

友人から届いたヒガンバナの開花
(2023.9.19.撮影)

比叡山坂本で見つけた桃色花
(2023.10.02.撮影)
トピックス2024年8月(葉月)の情報
紅くして黒き晩夏の日が沈む
山口誓子
8月7日は暦のうえでは立秋。
晩夏とはいえ夏真っ盛り。小浜でも連日「猛暑日」や「真夏日」が続きます。
真夏の太陽が、刻一刻と表情を変えながら小浜湾に沈みます。自然が織りなす
神秘的な光景に目が奪われます。
ヒポクラテスの木がかもし出す緑陰、薬草たちの生命力豊かな姿に、小浜湾の
美しい夕陽が重なります。薬草園の素晴らしさを実感して下さい。





トピックス8月の開花情報
8月の開花情報 (東玄関の奥から)
① 紫バレンギク(キクに似た紫紅色の大輪、乾燥花向き、火消しの“まとい”に似た花形)
② トロロアオイ(黄色の巨大輪で一日花、塊根の粘液成分を紙漉きに利用)
③ オオバギボウシ(薄紫色の花で一日花、東北地方では若芽が山菜の「ウルイ」)
④ ムクゲ(白花と紫桃色花の2種類、一日花、樹皮を薬用とする)
⑤ トウキ(レース様の白花が次々に咲く、葉には特有の香り)
⑥ サボンソウ(白花と紅桃色の2種類、根に泡立つ成分がある)
⑦ ノゲイトウ(葉が紫紅色でよく目立つ、紅白2段の穂状花を次々に出す)
⑧ ミシマイコ(日本特産の薬用種、黄色小花を次々に咲かせる)
⑨ メボウキ(ハーブ名:バジルは葉に特有の精油を含む、白色小花を穂状に咲かせる)
⑩ ハマビシ(浜砂に生える絶滅危惧種、黄色小花、果実に多数の棘がある)
⑪ セリ(春の七草の一つ、白の小花を頂生する水生植物、)
⑫ ツリガネニンジン(薄青色の鐘状花を数段に咲かせる、新芽は山菜として美味)
⑬ エビスグサ(黄色の蝶形花、果実は弓上に曲がる、種子を“ハブ茶”に利用)
⑭ ハナハッカ(ハーブ名:オレガノは元気を取り戻す香り、淡紅色の穂状花)
⑮ オミナエシ(秋の七草の一つで黄色の花、根に特有の臭い)
⑯ トウゴマ(大きな赤褐色の葉が目立つ、葉陰に黄色の房咲き、種子が峻下剤) など
トピックス夏バテの予防・解消には「レンコン餅」が効果的
お盆が近づく猛暑の季節になると水が恋しくなりますが、お寺や水生植物園ではハスの花が開き始めます(写真①)。ハス(Nelumbo nucifera)はインド原産の水生多年草で、熱帯アジアからオーストラリアに分布し、現在では温帯でも広く栽培されています。日本へは非常に古い時代に中国から渡来したとされ、すでに『古事記』や『万葉集』に“ハチス(蜂巣)”の名があります。果実の入った花托が蜂の巣のように見えるからで(写真②)、その後平安後期には「ハス」に転訛したとされています。一方、本種の漢名は極めて多く難しいです。ハスの総称が「荷(カ)(花や葉が水面から出ている草の意)」または「芙渠(フキョ)」、葉を「遐(カ)」、花を「蓮花(レンカ)」、根茎を「藕(グウ)」、果実を「蓮(レン)」、種子の中身が「的(テキ)(写真③)」、幼芽を「薏(ヨク)」などと呼びました。種子、根茎、葉、花托など様々な部位が薬用とされますが、主な薬効は強壮、止血、疲労倦怠感の解消等です。通常は地下茎の肥大した蓮根を食用にします。熱に強いビタミンCおよびビタミンB12などが豊富で、免疫抵抗力を高め、貧血に良いとされています。そこで、夏バテの予防・解消には後述するレンコン餅を食するか、単に生レンコンを擦り下ろしてスプーン1杯を毎日適当に味付けして食べるだけでも極めて効果的です。
日本に野生するものは「地バス」と呼ばれ、地下茎があまり大きくなりませんが、開花期が早いため“仏花”として用いられます。そのため日本では仏教や極楽浄土など何となく抹香臭い死後のイメージと結びついた花と感じる人が多いかと思われます。しかし、元来インドではハスは生命発生の母胎と考えられていて、女性の生殖を象徴していました。ちなみに、仏教と蓮華の出会いは、釈迦の誕生の時とされています。すなわち、太子が母マーヤ夫人の胎内に入ると、地中から1本の蓮華が咲き出ます。その中にはあらゆる霊薬が納まっており、やがて月満ちて母の右脇腹から歩み出ると、再び大地から大きな蓮華が咲き出て、太子はこの蓮華の中に立って「天上天下唯我独尊」の第一声を放ったという。かくして多くの仏典には数え切れないほどの蓮華が登場することとなったようです。
一方、泥水の中から汚れのない美しい花を開くことから、純粋性の象徴として絵画の題材として多用されましたが、仏教伝来後は西方浄土が神聖なハスの池とされ、寺の境内にもハス池を作るようになりました。また蓮根には通気孔となる10個の穴が空いていて「先の見通しが利く」との縁起担ぎから、お節料理に使われています。さらには、爽やかな香りのするハスの葉にご飯を包んで「ハス飯」を作り、ご先祖の御魂をお祭りする盂蘭盆(ウラボン)の習が今も各地で続けられています。
本種の栽培には有機質に富む柔軟な粘質土壌が良いので河川下流の沖積平野に産地が形成されます。またハスは高温性の植物で生育適温は25~30℃です。したがって、経済栽培の北限は茨木県と新潟県を結ぶ線となります。加えて、台風や強風の多い地帯も適地とはなりません。このような条件から、主産地は茨城県で、全国栽培面積の約30%を占め、次いで徳島、愛知、新潟となっています。
種子は広楕円形で長さ1㎝。堅い殻を持つために、寿命が長く、環境が良ければ千年以上も発芽力を失わない。事実、大賀一郎博士が昭和26年(1951)、千葉県検見川の遺跡で2000年前の地層から発掘された種子を発芽させることに成功しました。その生育したものが「大賀ハス」または「原始ハス」と呼ばれ、今では各地で栽培されています。一般的なハスより開花が20日ほど早いのが特徴で、花弁は細長い舟底型を呈しています(写真④)。
ところで、滋賀県守山市の大日池には花弁数3000にも達する「妙蓮」という室町時代から知られる古い品種のハスが保存されています(写真⑤、⑥)。一時、管理者の不在と植物ウイルスの罹患で消滅の危機を迎えたようですが、近江妙蓮保存会の懸命の努力および同じ遺伝子を有する金沢市の持妙院株の分与を受けて、今では立派に復活されています。文化的遺産として大事に管理・維持して欲しいものです。
レンコン餅の作り方;(滋養強壮・夏バテにお奨め)
① レンコン300gを擦り下ろし、ネギ10cmを微塵切りにして加え、桜エビ大匙2
上新粉を大匙4、塩小匙1/4、ゴマ油大匙1を入れて混ぜ合わせる。
② 耐熱皿にラップを敷き、①を平らに広げて、その上からラップをかけ、電子レンジで
8分加熱する。
③ 熱いうちに丸く形を作り、串に挿す。
④ 砂糖30g、醤油大匙2に水90mlを加えたものを鍋に入れて煮詰め、タレを作って
③にかける。

(草津みずの森水生植物園2019.8.05.撮影)




(守山市2011.7.29.撮影)

(大日池2019.8.05.撮影)
トピックス2024年7月(文月)の情報
七夕や 笹の葉かげの 隠れ星
村上 鬼城
七月七日は五節句の一つ七夕。夜空を煌めく天の川に想いをはせながら、短冊に願い事を書いて笹竹に飾ります。
中国では、織女と牽牛が年に一度めぐり逢う夜とされ、また、この日が手仕事の上達を女性が願う日でもあると言われています。
開園以来、人の手が紡いで約120種類もの薬草・ハーブが揃う県下唯一の薬草園。
患者さんや病院を訪れる市民の皆さんの癒やしや、薬草への関心を一層高めてもらえる場となるよう、七夕に願いを託します。


(キク科)



トピックス7月の開花情報
開花情報(東玄関の奥から)
① 紫バレンギク(紫紅色の大輪、火消しの“まとい”に似た花形、乾燥花向き、免疫活性サプリの原料)
② アサガオ(ヒマラヤ山麓に野生する一年草、淡青色花、種子は利尿と駆虫を兼ねた峻下剤)
③ トウキ(レース様の白花が次々と咲く、葉には特有の香り、根が婦人薬)
④ ムクゲ(白花と紫桃色花の2品種、一日花だが開花期間が長い、樹皮が水虫薬)
⑤ サボンソウ(白花と紅桃色の2種類、根に泡立つ成分があり、洗剤としてシャボンの語源)
⑥ ハマボウフウ果実(砂浜に咲く白花、褐色の種子をつける、新芽が汁の具材、絶滅危惧種)
⑦ ウイキョウ(黄色の小花、種子はハーブ名:フェンネル、香辛料・風邪薬、未熟果実はやや甘みあり)
⑧ ウツボグサ(青紫の穂花で、直ぐに茶褐色となる⇒夏枯草(カゴソウ) 、利尿効果大で痩身ハーブ)
⑨ サジオモダカ(水生植物、白色の小花が次々に毎日咲く、一日花、根茎に強い利尿作用あり)
⑩ メボウキ(ハーブ名:バジルは葉に特有の精油を含み、白色小花を穂状に咲かせる)
⑪ ハナハッカ(ハーブ名:オレガノは貴方の元気を取り戻すための香り、淡紅色の穂状花)
⑫ オミナエシ(黄色の花、秋の七草の一つ、根に特有の臭い)
⑬ ラベンダー(薄青色の穂状花、花と茎葉に特有の精油を含む、手指の消毒用アルコールに投入)など
トピックス牛一頭と引き換えても惜しくない下剤・アサガオ
比叡山坂本のとある民家の庭先で、薄青色の原種に近いアサガオの小花を見つけました。お家の方に了解を得てタネ採りをし(写真①)、今年から薬草園で栽培することにしました(写真②)。アサガオ(Pharbitis nil)はつる性の一年草です。昭和27年(1952)、京大探検隊がネパール・ヒマラヤ山麓で野生種を発見していますが、それは葉が3裂した並葉を持ち、花は径4~5cmで淡青色の丸弁、種子は黒色でした。茎は左巻きに物に巻き付いて伸びます。わが国へは奈良時代に薬用として遣唐使によってもたらされ、以来日本では観賞用として改良された代表的な花卉の一つです(後述を参照)。
熟した乾燥種子が「牽牛子(ケンゴシ)」です。利尿と駆虫を兼ねた峻下剤として用いられます。その呼び名は「貴重で高価な種子を、大切な財産である牛一頭と交易した」という故事に因んだもの、と伝えられています。瀉下成分のファルビチン酸は、腸内に入って胆汁や腸液で分解され、腸管に強い刺激を与えて蠕動を増加し、腸粘膜を充血させ、分泌を増加して水瀉性下痢を引き起こします。作用は極めて激烈ですから取り扱いには注意が必要です。
典型的な短日植物のため、自然では夏至を過ぎる頃でないと花を着けません。通常、午前2時頃から蕾がふくらみ始め、5時に開花、10時頃が最も美しくなります。体内の生物時計(内生リズム)は日没時にリセットされ、その後約10時間目に花を開きますが、季節が進むにつれて開花時刻は早まります。わずか1~2日の短日処理で花成誘導されることから、しばしば理科の実験材料として利用されます。
わが国で観賞用として盛んに栽培されるようになったのは江戸期で、初期に白花が出現し、延宝年間(1673~81)には淡青、淡紅、濃青色のものが、さらに宝暦年間(1751~64)には花色の変化だけでなく形態的な変わり物も生まれ、天明・寛政年間(1781~1801)には鉢植えで盛んに栽培されました。特に幕末の文化・文政年間(1804~30)および嘉永・安政年間(1848~60)に大流行し、早朝の朝顔売りは夏の風物詩となりました。入谷の真源寺(鬼子母神)や染井が栽培の中心地で、朝顔市は7月6~8日に現在も続いています。そんな中で特筆すべきは平賀源内の『物類品隲(ブツルイヒンシツ)』(1763)に見られる「変化アサガオ」です。この変化アサガオは概して実を結ばないため、奇花を翌年出現させるためには、外見的には普通咲きを示すヘテロの母木から採種し、次代の個体群からごくわずかの出物(子葉の異形個体)を選出します。メンデルの大法則(1900)のほぼ100年前に、江戸の園芸愛好家は劣性遺伝子を出現させる手法を探り出し、またそれを各自の庭先で活用していたことを考えると、今更ながらその文化的・歴史的成果に驚嘆させられます。それらの手法は保存会によって今なお継承されており、京都府立植物園ではそれらの展示会が継続開催されています(昨年は7月28日~8月1日、写真③)。
明治以降は人々の好みも変り物から大輪系が主流を占めるようになり(写真④)、花弁数が5枚から8枚前後に増えた、径24~26cmにもなる巨大輪アサガオも出現しています。それらの巨大輪種を、大阪の「行灯作り」、東京の「切り込み作り」、名古屋の「盆養作り」、京都の「数咲き作り」などの仕立て方で力量感を持たせるような栽培が行われています。

(2023.11.22.撮影)

(2024.7.03.撮影)

(2023.7.30.撮影)

(2023. 7.03.撮影)
トピックス2024年6月(水無月)の情報
樹も草もしづかにて梅雨はじまりぬ
日野 草城
6月。雨のベールが薬草園を覆い、しっとりと濡れた薬草たちが色合い豊かに、いつもと違った表情へと移り変わります。
雨は天からの贈り物、恵みの雨です。
シンボルツリー(ヒポクラテスの木)が、植樹から10年が経ち幹径40㌢、樹高10㍍を超えるまでに成長しました。風通しや採光、樹形を整えるため、このほど剪定を行い、すっきりとした姿となりました。
その根元では、花弁が印象的で小ぶりな淡青色~淡紅色の花アマチャ(ユキノシタ科の低木アジサイの変種)が、彩りを添えています。
この葉を乾燥して作られるお茶は、4月のお釈迦様の誕生を祝う「花祭り(灌仏会(かんぶつえ))」に欠かせません。
初夏の訪れを感じさせる薬草園で、今この時季にしか見られない光景をぜひお楽しみ下さい。






トピックス6月の開花情報
6月の開花情報 (東玄関の奥から)
① ドクダミ(十字形の白花、茶材としての収穫期、地上部が傷付くと地下茎が芽が分岐する)
② 紫バレンギク(紫紅色の大輪、火消しの“まとい”に似た花形、開花直後からカサカサの質感)
③ キンセンカ(金色の盃状の花形、花期が長い、乾燥花を肝機能の改善薬に利用)
④ ノウゼンハレン(花がノウゼン(樺)色で、葉はハスに似る、葉と花が食用で、少し辛味あり)
⑤ トウキ(レース様の白花、葉には特有の香り、根を婦人薬に活用)
⑥ コエンドロ(淡桃白色の小花、花と果実には芳香、葉はカメムシ臭い“パクチー”)
⑦ カワラナデシコ(秋の七草の一つ、野生種はピンクの花)
⑧ カミツレ(黄色のドーム部にリンゴの香り、白色は萼片、茶材で“癒し”効果あり)
⑨ 西洋ワサビ(白色小花、根茎の薄切り“ホースラディッシュ”がローストビーフの必需品)
⑩ ベニバナ(咲き始めは黄色で、後に紅色に変化する、女性の冷え性や血色不良を改善、染料)
⑪ カレープラント(全草にカレー臭、花は黄褐色、乾燥してポプリに利用)
⑫ アマチャ(アジサイの仲間で、滋賀県朽木辺りのスギ林下に散見、葉を発酵させる甘い茶材)
⑬ 薬用サルビア(青紫色の花、葉がソーセージの具材、ハーブ名:セージ)
⑭ ジャコウソウ(ハーブ名:タイム、茎葉に触れると特有の芳香、茎葉をオイル浸けで利用)
⑮ ルリヂシャ(青色(マドンナブルー)の星状花、キュウリのような風味で生食できる)
⑯ ウスベニアオイ(ビロード色の花、夏を代表する庭の花、花の乾燥品を茶材とする)
⑰ 西洋ノコギリソウ(赤花と白花があり、葉がノコギリ状、根から出る分泌液は害虫の忌避剤)
⑱ イヌバラ(ピンク色の花は夜間に匂う、橙赤色の果実が“ローズヒップ”、ジャムや茶材に利用)
⑲ ヘンルーダ(4~5弁の黄色花、サンショウを少し甘くした特有の強い香り、枝葉を“栞”に使う) など
トピックス品種改良が盛んな日本原産のアジサイ
オランダ東インド会社の医師で、長崎出島にあったオランダ商館に滞在していたシーボルト(Philipp F. Siebold)は、丸山の遊女・其扇(ソノギ)の本名「楠本滝(通称“お滝さん”)」をアジサイの学名に付し、彼の著書『日本植物誌』で紹介しています。残念ながらすでに別の名前で発表されていたので、オタクサの学名は認められませんでしたが、彼が持ち帰った株はライデン大学のシーボルト記念植物園で今でも大事に育てられています(渡辺が現役の頃、同園の園長と数回懇談する機会があって確認しました)。恐らく当時広く愛培されていた極めて平凡的な系統で(写真①)、オランダではその土性によって青色がうまく発色しなかったためほとんど注目を集めなかったようです(同じように持ち帰られたアケビの花の構造図が、後日ライデン大学の校章となっているのに比べると格段の扱いですが、――)。
アジサイ(Hydrangea macrophylla)は、鎌倉時代に伊豆七島野生のガクアジサイから園芸化され、江戸時代にはごく一般的な庭園樹となっていました。古く中国に渡り、そこから1789年にバンクス卿(J. Banks)によってイギリス・キュー植物園に導入されましたが、その品種は現在でも導入者を記念して「サー・ジョセフ・バンクス」と呼ばれています。また品種・マリエシィは、日本の桃色アジサイがフランス人によって導入されたものですが、これにベニガクなどが交雑親となって現在のように多色の品種群がヨーロッパで育成され、「西洋アジサイ(garden hydrangea)」と呼ばれて世界中で広く愛培されるようになりました(写真②)。日本でも初夏だけでなく、クリスマスの頃にも色とりどりの鉢物が販売されていますね。最近、オランダから導入された品種・アナベル(写真③)は、北アメリカ原産で大きな純白球状の花を咲かせます。基本的なガクアジサイの花形を額縁型(写真④)、アジサイ形を手毬型(写真⑤)として区分します。
本種の花の青色は、アントシアニンと有機酸の一種およびアルミニウムの複合体によって発現しています。そこで、酸性の土壌ではアルミ成分や鉄分が根から吸収されやすいので花の色が青くなりますが、逆の場合は桃色が強く発色します。また土壌中の硝酸態窒素とアンモニア態窒素の割合なども花色を変える原因となっています。したがって、人為的に青の発色を促すためには肥料として過リン酸石灰や硫酸アンモニウムなどを、また反対に赤の発色には苦土石灰などを施用することとし、それぞれ専用の配合肥料が市販されています(写真⑥)。ただし、アルミや有機酸の量が少ない、あるいはそれらの働きを阻害する成分を持っている品種では青色にならないものもあります。ちなみに、日本の美術の中にアジサイが出てくるのは桃山時代以後のことで、江戸末期まではいずれも青色の花であって、西洋アジサイで見られるような紅色や桃色は全くないので、それらの普及は20世紀以降のことと考えられます。特に最近になって急速に改良が進展して次々と新品種の鉢植えが店頭に並べられています。
ところで、日本原産のアジサイが地球の反対側ではどう生育すると思われますか??
ブラジル南部のポルトアレグレという街の郊外にあるグラマド公園に行った時のこと、その入り口に高さ4mほどの“壁となった樹木”が何と“アジサイ”でした(写真⑦)。日本では冬に落葉しますが、ここでは薄雪が降る気候ではあるものの一年中青々と生育するらしく、おまけに花がらを摘み取るような習慣がないですから、数多くの蕾や真っ盛りの花、褐色や黒色に枯れた花がらなどがホント多彩に混在していて、しばし言葉を失いました。「所変われば、品変わる」の典型例でしたね。

(大原野・善峰寺2021.6.09.撮影)

(宇治・三室戸寺2021.6.14.撮影)

(2021.6.14.撮影)

(2021.6.14.撮影)

(2008.7.03.撮影)

(ブラジル・グラマド公園2002.1.26.撮影)