トップページ > 中川淳庵顕彰薬草園 > 薬草のご紹介 > コブシ・農作業の重要な季節指標

コブシ・農作業の重要な季節指標

薬草検索

特徴

コブシ(Magnolia praecocissima)は、芳香のある大型で6弁の白色花を枝先に着けて雪国の早春を彩ります。北海道から九州の山地に広く分布する落葉高木で、高さ15m内外に達します。庭木としても利用されますが、実際には尾根筋などごく限られた範囲にしか生えていません。湿気の多い沢辺の斜面地にはごく近縁のタムシバ(M. salicifolia)が生えています。特に日本海側に多いので、若狭近辺の山で見かけるのはほとんどが後者です。

両種の見分け方の要点は、コブシが枝を真横に張り出して、花のすぐ下に葉があります。萼片は有毛で、蕾を咬むと芳香があって辛いのが特徴です。一方、タムシバは、枝が斜上して、花のすぐ下には葉がないのが特徴です。また枝には特有の香りがあり、萼片は無毛です。
かつては農作業における重要な季節指標植物で、「サツマイモの床出し」(鹿児島)、「サトイモの植付け」(栃木)、「田起し始め」(東北地方)などの目安としました。

これらモクレン属の開花前に採取した蕾を乾燥したものが「辛夷(シンイ)」で、精油を約3%含み、漢方では風邪による頭痛、鼻炎、蓄膿症の改善に有効とされています。日本では貝原益軒が『大和本草』(1709)でコブシに辛夷を当てて以来、コブシを基原植物としています。